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その視線はブレることなく、まっすぐと前を見ている感じだった
文/編集部

ここ3年は1000m通過が60秒を切っていた府中牝馬Sだが、今年は4年ぶりに60秒を超え、60秒8という緩い流れになった。

マーメイドSで逃げたセラフィックロンプに、先行脚質のブライティアパルスブラボーデイジー、さらには前走で逃げ切っていたスマートシルエットも加わり、流れはけっこう速くなるんじゃないかと思ったのが、あにはからんや。

昨年の府中牝馬Sを2馬身差で快勝したムードインディゴは、今年は⑭着という結果に終わったが、実は上がり3Fのタイムだけを見ると、今年が33秒1で去年が33秒7。切れ味だけなら今年の方が上なのに着順は下から4番目なのだから、競馬はいかにペースが大事かということだろう。

上位に入線した馬は、終始4番手以内にいて、ペースがマッチした面もあったのだろうが、優勝したテイエムオーロラはそのペースを作り出した本人(馬)。言ってみれば、製作総指揮主役を演じるシルベスター・スタローンみたいなもので(笑)、その走りは見事の一言だった。

7枠13番という枠順だったテイエムオーロラは、ゲートが開くとまったく抑える気配がなく、鞍上の国分恭介騎手も内を少しだけ意識する感じで、前だけを見据えてハナを奪って行った。

黒いゴーグルをしていたので表情は窺い知れなかったが、その視線は大きくブレることなく、まっすぐと前を見ている感じだった。他の人馬は、あの姿勢に気圧された面もあったのではないかと思ったほどだ。

結局、マーメイドSの③&②着馬が今回の①&②着馬となったわけだが、マーメイドSを先行押し切りで優勝したブライティアパルスは、⑯着に敗れている。休み明けの影響があったのかもしれないが、掛かり気味に動いて失速したのを見ると、自分のリズムで走れなかった面も大きかったのだろう。その点を考えても、テイエムオーロラ国分恭介騎手は見事な騎乗を見せたと思う。

今回のレースぶりは、言ってみれば「テン良し、中良し、終い良し」だったわけだが、それを導いた国分恭介騎手は、東京競馬場での騎乗が2度目だった。前回は今春(4月25日)で、その時は8回騎乗してダート1600m戦での②着が最高だった。

東京競馬場のように左回りで長い直線があり、さらには坂のあるコースは、乗り慣れないと難しいと思うのだが、そんなことは微塵も感じさせなかった。2年目ながら全国リーディングで25位につけているジョッキーの実力がいかんなく発揮されたということだろうか。

テイエムオーロラは昨年までは1勝馬で、今年3月に2勝目を挙げた時も短距離を走っていた。しかし、そこから1600m(3勝目)、1800m(4勝目)と距離を延ばしながら連勝を飾り、マーメイドSで③着となった後、仕切直しで降級した前走(1600m)から再び連勝街道を走り始めた。

2006年生まれのテイエムオーロラは、同年秋のHBAオータムセール(当歳)で500万円(税別)で取引されている。昨年までの成績は、決して上級とは言えなかったわけだが、今年はこれで6戦5勝。今後、いったいどこまで羽ばたくのか、非常に楽しみになった。

3頭目の牝馬三冠馬の誕生で、2010年10月17日はそのように記憶されることになるのかもしれないが、その裏の東京でも、若くて将来性のある人馬が初めて重賞を制した日であると、思い出される時が来るのではないだろうか。