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あの作戦を堂々とやり遂げたのだから強いのひと言
文/安福良直

近年の菊花賞といえば、ダービー出走馬がそのまま上位を占めるケースと、夏以降に古馬相手の1000万下を勝ち上がった馬が春の実績馬を負かすケースの両方がある。

ディープインパクトが勝った時が前者の典型だが、ここ2年はオウケンブルースリスリーロールスと後者のパターンが続いていて、今年も後者にあたるビッグウィークが見事に勝利。③着ビートブラック、⑤着コスモラピュタもそうだったし、これからの菊花賞は、古馬相手に1000万下を勝った馬を中心に考える時代になったと思わせる一戦だった。

ただ、今年の場合は古馬相手に1000万下を勝った馬がなんと10頭も出ていて、これらの中でビッグウィークを選び出すのはなかなか大変。勝ち鞍は2000mまでだったし、なにしろ初勝利を挙げたのが今年7月に入ってから。一昨年の勝ち馬オウケンブルースリは初勝利が同年の6月だったが、それよりもさらに遅い。

いくら夏の上がり馬を狙えといっても、ダービーの時に未勝利だった馬が菊花賞を勝つ時代に入ろうとは、なかなか想像がつかないものである。実は私も1000万下勝ち馬から5頭を選んでボックス馬券を買ったものの、その中にビッグウィークは入っていなかったくらいだ。って、これではいけませんね。

とはいえ、ビッグウィークの勝ちっぷりは、堂々たるものだった。スタートが抜群に良く、コスモラピュタを行かせてインの3番手という絶好位で待機。道中は掛かりそうになっていたが、必死に我慢して折り合っていた。

そして、ハイライトは2周目3コーナーの坂の下り。大逃げを打っていたコスモラピュタを自力で捕まえるべくスパートしたシーンだ。

スタミナはあるが切れる脚はあまりない、という馬の特徴を活かした作戦だが、力のない馬がこれをやると、逃げ馬を捕まえられないばかりか、後続の有力馬にも捕まって惨敗するのがオチ。でも、ビッグウィークは堂々とやり遂げたのだから強いのひと言。ここで3番手以下の馬を突き放したことが最大の勝因だろう。

川田騎手キャプテントゥーレ皐月賞に続いてG1(クラシック)2勝目だが、いずれも自力で勝ちに行っての勝利。先日のスプリンターズSは積極的になりすぎたのがアダになった感じで降着処分を受けたものの、積極的な姿勢を失わずに汚名を返上したのは見事だと思う。今後もこんなレースを何度も見せてほしい。

先行して菊花賞を勝った馬は、マヤノトップガンのように有馬記念でも好走することが多い。今年は古馬が手薄なようだし、気は早いが今回のような競馬ができれば、ビッグウィーク有馬記念で期待していいのではないだろうか。って、初勝利から半年足らずで有馬記念馬ともなると、それこそ前代未聞の珍事だけどね。

ということで、「ビッグウィークには恐れ入りました」という今回の菊花賞だったが、②着のローズキングダムも、本命馬にふさわしい競馬をしていたのは確か。

道中は中団につけ、折り合いもバッチリ。こちらも坂の下りからスパートして馬群から抜け出したが、同じ競馬を前にいたビッグウィークにやられてしまった格好。ビッグウィークが終始インをピッタリ回っていたのに対し、こちらは外を回っていたことも不利に働いたように思えた。

ただ、この一族の因縁を考えると、「負けて強し」の競馬はいらない、「多少泥臭くても勝ちは勝ち」という競馬がしたいところでもあったかな。とはいえ、ある程度速い流れの中で、自力で勝ちに行く競馬ができたのは収穫。

ビッグウィーク有馬記念なら、ローズキングダムは直線の長い東京のジャパンCで楽しみと言える。一族悲願の古馬G1を勝つ日が近づいていることは間違いないはず。

他にも、ミスキャスト産駒で大健闘した③着のビートブラックや、大逃げを打ってもバッタリとは止まらなかった⑤着のコスモラピュタなど、見せ場を作った馬が多い菊花賞だった。

レース前は、ダービー馬エイシンフラッシュが回避したりと春の実績馬がボロボロ抜け、レベルの低下を心配したものだが、終わってみれば見応え十分。今回の上位馬がその後活躍して、「実はレベルが高かった」と言われる菊花賞であってほしいものだ。