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鬱憤を一掃する、まさに「台風一過の空」のような強さだった
文/石田敏徳

季節外れの台風がやってきて、土曜日の東京競馬が月曜日に順延になった。そういえば、春にこの『速攻インプレ』を書かせてもらった皐月賞の時は、レースの前日、中山競馬場の周辺に雪が降ったんだよなあ。4月の雪に続いて、今度は10月末の台風ですか。やれやれ、わが国のお天気はいったいどうなっとるんでしょう。

と、気候の話題から書き出してみたのは、今回の天皇賞では「馬場の状態」が重要なポイントになると考えていたからだ。なにしろ台風に見舞われたのだから、東京競馬場には相当大量の雨が降ったはず。そのうえ西からまた新たな雨雲が近づいてきているとかで、関東地方の空は「台風一過」というフレーズとは裏腹の、どんよりとした雲に覆われている。

気温は低め、湿度は高め、風は弱めとくれば、急速な回復は望めそうにない。せいぜい「メインレースの頃に稍重」ぐらいが関の山だろうと思っていたら、おやおや、馬券を買う前から予想が丸外れですよ。私が競馬場に着いた5Rの時点で、東京競馬場の芝コースはすでに稍重に回復していたのだった。

それでもまだ油断はできない。というのも秋開催の開幕週、土曜日の東京競馬場にはやはり大量の雨が降り、日曜日に不良から稍重にまで回復するという流れだったのだが、この時は日曜日も重たげな血統の馬が好走していたからだ。

本栖湖特別を8番人気で勝ったコスモヘレノス(父グラスワンダー、母の父エリシオ)とか、毎日王冠①&②着のアリゼオ(父シンボリクリスエス)、エイシンアポロン(父ジャイアンツコーズウェイ)などは、少なくとも私にとって、血統(と馬場)に着目しなければ手を出しづらい馬だった。

そんな経緯があるからこそ、季節外れの台風に見舞われた今回の天皇賞では、「馬場の状態が重要なポイントになる」と考えていたのである。

ところが、肩慣らし程度に馬券を買いながらレースを見ていたら、芝の状態は毎日王冠の当日とは違って軽い感じ。スローな展開のレースが続いたためでもあるが、それなりに速い上がり時計が刻まれているし、どうやら「普通の稍重」と考えてよさそうだ。そして、一方では明らかに内伸びの傾向が目立つ。軽いキレ味を活かせるうえ、インが伸びる馬場とくれば──。

(こりゃブエナビスタで仕方ないか)

一旦はそう考え、白旗を掲げかけた私。それでも、牡馬混合のG1ではいつも、オトコ馬に表彰台のてっぺんを譲ってきた過去の履歴に一縷の望みを託し、ブエナビスタの②着付け馬単&3連単なんて悪あがき馬券を買ってみたのだが、やっぱりというべきかブエナビスタは強かった。

ゆっくりめのスタートから中団馬群の内につけて進んで向いた直線、スミヨン騎手のゴーサインに応えて繰り出した末脚のなんとまあ鋭かったこと。

例によって出遅れてしまったペルーサがゴール前では猛然と追い込んできたものの、危なげなんて露ほども感じさせないまま、最後は手綱を抑える余裕を示してのフィニッシュ、いやはや、恐れ入りました。

というわけでただただ、「ブエナビスタが強かった」の一語に尽きた今回の天皇賞。レース後の共同会見でスミヨン騎手は、「(自分とコンビを組んだ中のベストホースである)ザルカヴァを超える馬になるかもしれない」とコメントしていたが、これはどうもリップサービスっぽく感じられたので、ここではブエナビスタの強さをもっとも熱っぽく語ってくれたアーネストリー(③着)の佐々木晶三調教師のコメントを紹介しておこう。

「今日は瞬発力勝負になっちゃったから…(少し黙って)…というよりも、ブエナはつえ~! 馬なりであれだけ離されちゃうんだもんなあ。やっぱり春は(海外遠征帰りで)調子が悪かったんだろうね。宝塚記念の時は、ウチの馬も本当の状態ではなかったのに半馬身しか負けなかったから、逆転できるなら今日かなと思って目一杯仕上げたんだけど、よく考えたら向こうも状態が良くなってたんだね。今日の感じだと、ちょっと逆転は難しいかもしれない」

牡馬混合のG1制覇という欠けていたピースをついに手に入れたブエナビスタ。レースの濃密な内容と着順がなかなか一致しないことに対して、見る側が抱き続けてきた鬱憤を一掃する、そう、まさに「台風一過の空」のような強さだった。