マルモセーラのレースぶりは、いかにもクロフネ産駒らしかった
文/編集部
ディープインパクト産駒が話題の中心にいる今年の
2歳戦だが、重賞戦線に限ってはディープ一色というわけではない。
ディープ産駒にとっては、今週の
百日草特別を勝った
ディープサウンドが初めての2勝馬で、オープン勝ちはまだない。
種牡馬から見た2歳戦線の混戦ぶりは、今週までに19レース行われた
2歳オープン&重賞の勝ち馬の父を見ても分かる。実は、のべ
16頭もいるのだ。2勝している種牡馬は、
ゼンノエルシド(ロビンフットが2勝)、
ハーツクライ、そしてこのレースを勝った
マルモセーラと、3着
ホエールキャプチャ(芙蓉S勝ち)の父である
クロフネだ。
短距離やダート戦が得意で、2歳戦に強いイメージもある
クロフネ産駒だが、実はJRA2歳重賞勝ち馬は
フサイチリシャールが2勝と、このレースを3年前に勝った
オディールがいるのみで、意外と少ない。
また、これまで
クロフネ産駒は芝重賞を9勝しているが、4コーナーの位置取りがもっとも後ろだったのが、
阪神Cでの
フサイチリシャールの
5番手。逃げ、もしくは先行して粘り込むことこそ身上の
クロフネ産駒にとって、道中3番手から抜け出したこの日の
マルモセーラのレースぶりは、いかにも
“らしい”ものだったと言える。
スタート直後は先頭に立った
マルモセーラだが、外から来た馬を行かせて、自身は控えた。そのまま直線に入るまで外に出さずにジッとして、前を行く馬を外から交わしていったレースぶりは、07年にこのレースを勝った同父の
オディールとほぼ同じ。これぞ
クロフネ産駒の真骨頂だ。
抜け出す時に前が少し詰まりかけたが、落ち着いて進路を外に取り直し、4年目のジョッキー・
田中健騎手の騎乗ぶりは、これが初重賞制覇とは思えないほど落ち着き払ったものだった。
鋭い脚で前を追い詰めながらハナ差で敗れた2着
ホーマンフリップと、3着だった
ホエールキャプチャも、それぞれが
収穫を得たと言える。
ホーマンフリップは
新潟2歳Sのゲート内で暴れたために発走除外。自己条件も使わず、ここが
約4ヶ月半の休み明けでありながら力のあるところを見せた。3着
ホエールキャプチャも直線入り口では最後方にいながら、前残りの流れをよく差してきた。直線で前にいた馬を捌くのに手間取ったことを考えると、この差はいかにも残念だが、同時に力の証明でもあるだろう。
レースの
レベルはどうか。勝ち時計の
1分22秒3は、過去15回を数えるこのレースの中では12番目のタイム。
マルモセーラの上がり35秒4は、勝ち馬の中では15回中14番目タイ。
しかし、同じ1分22秒台でこのレースを勝った馬の中に
スイープトウショウ、
ピースオブワールドなどの名も見える。
マルモセーラ自身も、前走の未勝利戦(京都芝1400m)で、稍重馬場ながら
1分21秒9で4馬身差の逃げ切り勝ちを収めており、持ちタイムのない馬ではない。
週明けに降った雨のせいか、良馬場発表ながら絶好の馬場状態でもなかったようで、馬場もタイムに影響したかもしれない。「ファンタジーSはレベルが高かった」とまでは言えないだろうが、少なくとも
レベルが低かったと断言はできないのではないか。
毎年の恒例行事になりつつある
『伝説の新馬戦』探しだが、
マルモセーラのデビュー戦も、伝説とはまだ言えないかもしれないが、なかなかレベルが高かった。勝った
エーシンジェネシスはその後パッとしないものの、2着は
マルモセーラで、3着は
野路菊S・3着の
モスカートローザ、4着
アドマイヤサガスは
デイリー杯2歳S・2着、それ以外にも勝ち上がった馬が
3頭いる。
昨年の
ローズキングダム&
ヴィクトワールピサ、一昨年の
アンライバルド&
リーチザクラウン&
ブエナビスタの新馬戦にはまだ遠いが、『伝説』を作る作業はこれからが本番だ。
今年の
阪神JFでは、おそらく
デイリー杯2歳Sを快勝した
レーヴディソールが1番人気に推されるのだろう。グレード制導入後から昨年まで、2歳秋シーズンに行われる
マイル以上の牡牝混合重賞において、牝馬は[0.4.1.34]だったのだが、
レーヴディソールはこのデータを覆して勝利した。
牡馬相手に快勝したのだから、牝馬同士ならあっさりだろう、と考えられるのが普通だろう。
ただ、同じ
デイリー杯を勝った
シーキングザパール(96年、当時のデイリー杯は1400m)が、
阪神3歳牝馬Sで4着に敗れた例もある。牡牝混合戦と牝馬同士のレースでは
流れが異なることも間々あるものだ。
後方から差しを狙う
レーヴディソールと、先行して粘り込みを図る
マルモセーラ。今年の
阪神JFは、そのような対決の図式となりそうだ。
ファンタジーS組のレースぶりにも期待をしたい。