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東京ダート1600m重賞は、スピードとスタミナ、そして経験も問われる
文/編集部

春開催の東京ダート2100mで行われていた武蔵野Sが秋開催に移され、ダート1600mに変更されたのは2000年。当初は秋開催1週目の最終週、つまりは天皇賞・秋が行われる週の土曜日に施行されていたのだが、08年に1週後ろにズラされ、さらに今年からもう1週後ろに移動された。

おそらくこれは、ジャパンCダートのプレップレースとしてみやこSが新設され、同レースが本番まで中3週という間隔を保ちたかったからだと思われる。武蔵野Sはその余波を受ける形になったのだろう。

11月初旬には、地方交流重賞の最高峰であるJBCが行われ、そちらにも有力馬は向かうわけだから、普通であれば、残された武蔵野Sは層が薄くなるはず。ところが、フタを開けてみると、上昇中の馬たちが多数集まり、次代を担うダート馬たちの争いのような様相を呈した。

出走16頭のうち、前走で勝ち鞍を挙げていた馬5頭を数え、そのうち3頭が連勝中。前走を勝っていた5頭はいずれも1馬身以上の差を付けて快勝して駒を進めてきていて、底の割れていない魅力も感じさせた。

ところが、その5頭のうちで馬券圏内に入ったのは、②着ダノンカモンだけで、重賞ともなると、なかなか楽ではないことを実感させた。

今年の武蔵野Sはペースが遅く、ユノゾフィーシルクフォーチュンといった差し馬には流れが向かなかった面もあったのだろうが、楽に先行していたように見えたダノンカモンも、グロリアスノアの末脚に屈して抵抗しきれなかった。

東京ダート1600mの重賞を制するには、やはりスピードスタミナを兼備して、その上に経験も必要といった感じで、総合力を問われるのだろう。

1番人気に推されたケイアイガーベラは、戦前、「白鵬かどうか」という話になっていた。九州場所で双葉山69連勝に挑む白鵬の立場とダブッて見えたのだ。では、双葉山は何かと言うと、ホクトベガである。

これはいったいどういうことかと言うと、東京ダート1600mの重賞は、1984年にフェブラリーハンデ(G3)が創設されて以来、48回行われているのだが、牝馬で優勝したのはホクトベガしかいなかったのだ(ホクトベガ96年フェブラリーSを3馬身半差で快勝している)。

当時のダート戦線で無敵を誇ったホクトベガに対して、ケイアイガーベラは比肩できるほど強いのか? この両馬の関係が、双葉山白鵬の関係に似て見えたのである。

結果としてケイアイガーベラは、内で砂を被ったことや1600mという距離も影響したか、15着に敗れてしまった。また、外を先行して一度は先頭を窺う形だったブラボーデイジーも、最後に交わされて③着だった。

改めて、東京ダート1600m重賞牝馬が勝つことの難しさ、また、ホクトベガの偉大さを感じさせられることになった。

優勝したグロリアスノアは、重賞1勝馬ではあったが、今年のフェブラリーSでは⑤着に入っていて、実績的には上位と言っていい存在だった。4ヵ月ぶりの休み明けだったが、根岸Sを快勝した時も4ヵ月ぶりで、最後の末脚は根岸Sリプレイを見ているようでもあった。

しかし、気になる点もあり、それは2枠4番という枠順だった。

根岸Sを勝った時は4枠8番で、直線では馬場の外目に持ち出され、内で粘る先行勢を交わして優勝していた。今回の内枠では外に出しづらそうで、果たしてどのような競馬をするか。鞍上も初騎乗の戸崎騎手で、その微妙な不安が6番人気(単勝14.8倍)という前評価にも表れていたのではないだろうか。

先行勢を見る位置で進めたグロリアスノアは、やはり外には持ち出せず、直線では内に進路を取った。戸崎騎手は手綱を持ったままで、脚を溜められたとの見解もあるのだろうが、それでも砂を被りながら怯まず、伸びてきたわけで、そこには豊富な経験の強さが感じられた。

来年以降の武蔵野Sも、今年と同じように上昇馬たちが多数集まるメンバー構成になるのかもしれないが、経験のある馬が貫禄を見せるかもしれない。その点は、今後の教訓にしたいところだ。

それともうひとつ、エポックメイキングな出来事があったので、そのことも記しておこう。

東京ダート1600mの重賞で、父ミスプロ系の馬が出走したのは93年(フェブラリーHエーピージェット)が初めてで、それ以来、今回の武蔵野Sの前までで174頭が出走してきたが、馬番5番以内で勝った馬はいなかった

馬番別の成績を記すと、1~5番が[0.1.1.51]6~10番が[7.3.3.44]11~16番が[4.3.6.51]。今回のグロリアスノア馬番4番だったので、このデータを覆したことになる。

あまり大きなニュースになっていないが、今秋から東京ダート1600mのスタート位置が変更されている。9月24日にJRAから発表されていて、以前よりも外側に位置されるようになった。

以前のスタート位置だと、向こう正面のストレッチに入るまでに内枠の馬のスペースが狭くなることがあり、それを改善する狙いがあったと思われる。

この変更は、内枠の馬の走りやすさに結びつくだろうから(もちろん、以前に比べると、だが)、レース結果にも影響を及ぼす可能性があるだろう。

グロリアスノアの勝利は、父ミスプロ系の馬としてエポックメイキングな出来事であったと同時に、今後の東京ダート1600mの傾向変化の端緒になるかもしれないので、そのことは記憶に止めておきたい。