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まさか10年単位では効かない衝撃を受けることになろうとは
文/浅田知広

もし今回「レッドディザイア」という名前があったら、みなさんはどんな予想をしただろうか。春のヴィクトリアマイルでは僅差の④着、今回出走するメンバーでは②着だったヒカルアマランサスに先着を許していたのだが、適性などを考えればいいところには来るだろう、という予想が立つ。

さて、それがアパパネメイショウベルーガを押しのけて本命なのか、というと、臨戦過程やその他まで想像しなければならないが、まともな状態でさえ出てくれば、1番人気の可能性も大いにあったに違いない。

しかし、レッドディザイアはご存じのようにアメリカに遠征し、BCフィリー&メアターフで④着。勝ったシェアードアカウントから約1馬身半、前年の覇者で惜しくも連覇を逃した②着・ミッデイからは1馬身+クビ差であった。

そのミッデイに、前々走・ヨークシャーオークスで3馬身差をつけられた②着だったのが今年の英愛オークス馬、そして、このエリザベス女王杯に出走したスノーフェアリーだ。単純計算では、もしレッドディザイアが出走して1馬身4分の3差で勝てると読めば、ヒカルアマランサスも僅差で勝てるはず、ということになる。

もちろん、そんな机上の計算などアテにならないから、馬券がなかなか当たらないのが競馬。しかも、馬場も展開もまるっきり違う競馬での机上の計算にどれほどの意味があるのか、と言えば相当疑問ではある。

そんな、疑問の残る机上の計算+これまたアテになるか微妙なボーナスがかかった「本気度」+コースがまったく違う英愛オークス制覇という実績で、単勝オッズは8.5倍。日本でやる以上は日本馬という発想もあり、特に最近の中~長距離路線は結果もそんな傾向だけに、まあ、こんなものかな、というオッズであった。

だがしかし。外国馬はどうしても日本で走ることによる「マイナス」を考えてしまいがちだが、その逆だって当然のごとくあるもの。英愛オークスで見せた爆発力が日本の馬場でさらに活きる、という可能性だってあったわけだ。

……などと語れるのはレースを見た後だから。いや、そんな可能性も少しくらいは考えてはいたものの、まさかこれほどの爆発力を見せるとは。

ゲートが開いてリトルアマポーラが4番手につけた時には、一昨年を思い出して「やられたか」と思ったが、それと同時に「聞いてないよ!」というスノーフェアリーの好位追走。この時点で、多少(日本の馬場では)切れ味不足だったとしても、いい競馬にはなるのではないか、という雰囲気はあった。

しかし、終わってみれば「いい競馬」どころの騒ぎではない。坂の下りで多少手応えが怪しいかというシーンはあったものの、直線に向くととてつもない末脚を発揮

後からラップを見れば、逃げたテイエムプリキュアの脚色が鈍って残り400mから200mは12秒7。数字以上に見た目ですごさを感じたのも確かだろう。ただ、4コーナーですぐ横にいたアパパネも、2馬身ほど後ろにいたメイショウベルーガも置き去りする大楽勝実況アナウンサー「すごい脚」ではなく「すんごい脚」と言ってしまうのも納得の爆発力だった。

最近、海外のレースで「壁」を感じることはあっても、なかなか国内の、それも平地中距離以上で「壁」を感じることはなかったもの。日本馬がここまでの完敗を喫したレースというと、どうだろう、91年にメジロマックイーンゴールデンフェザントの④着(0秒6差)に敗れたジャパンCとか、とても10年単位では効かない話になってくる。

正直なところ、「ブエナビスタもレッドディザイアもいないんだよなあ」などと思っていたレースだったが、まさか10年20年単位の衝撃を受けることになろうとは。

さて、この衝撃は相手関係ゆえか、それとも力+適性なのか。この後、ジャパンCの招待も受諾しているので、できればこのまま調子を落とさず、さらなる強敵相手での走りをぜひとも見てみたいものだ。