さまざまな要素が見事なハーモニーを奏でた会心の勝利
文/鈴木正(スポーツニッポン)
競馬の神様は、いつもドラマチックなシナリオを用意する。
マイルCSを制したのは、
9月4日の札幌1Rで落馬し、約2カ月間のリハビリに耐え、先週戦線復帰したばかりの
岩田康誠騎手だった。
今年はリーディング上位騎手の落馬負傷が多いが、
内田博幸騎手は大ケガを負った今年、悲願の
ダービーを
エイシンフラッシュで制した。
岩田騎手も復帰翌週に
劇的なG1制覇。こちらも
「エーシン(エイシン)」での優勝であったのは偶然か、それとも必然か。
エーシンフォワードには、お誂え向きの流れとなった。逃げた
ジョーカプチーノが前半3Fで刻んだ33秒7のラップは、00年、06年の34秒0を上回り、
過去10年で最速。
未経験の激流に
トゥザグローリー、
ワイルドラズベリーなどが後方であえぐ中、
エーシンフォワードは中団のインを涼しい顔で追走した。もともとが1200m、1400mのスペシャリスト。
マイルCS史上、指折りのハイペースも、この馬にとってはいつものペースだったのだろう。
直線では迷わずイン。先週の
スノーフェアリー(
エリザベス女王杯)を思わせるコース取りだが、これも元をたどれば
岩田騎手の専売特許だ。
08年朝日杯FS(
セイウンワンダー)、そして
今年の皐月賞(
ヴィクトワールピサ)と、
ここいちばんの場面で岩田騎手は常にインを突いてきた。
グイッと抜け出す。そしてこん身の左ムチ連打。外から
ダノンヨーヨー、
ゴールスキー、そして
サプレザが迫ったが、ほんのわずかに届かなかった。
13番人気をあざ笑うかのような会心の勝利。春の
高松宮記念では③着と上位の実績を誇り、秋初戦の
スワンSでは1番人気の支持を受けていた
エーシンフォワードが、なぜかこのG1で人気を落としていた。
ペース、馬の実力、そして岩田騎手の騎乗ぶりが見事なハーモニーを奏で、淀のマイルに熱い感動を呼び込んだ。
「先週から競馬に乗せてもらい、こんなに早くG1を勝たせてもらえるとは。『ゴールはまだかっ!』と思いながら追っていた。何とか凌いでくれた。馬がよく走ってくれた」。味のあるコメント。これこそ
岩田騎手の真骨頂だ。
「2カ月間、リハビリは自分自身にとってもつらかった。やはり馬の上がいちばんだ。無事に復帰できたのは家族の支えもあったから……」。そう言うとグッと言葉に詰まった。レースに乗れる喜びを全身で感じ、いい意味で気持ちを無にしたことが、キレのある好騎乗につながったのだろう。
それにしても競馬はおもしろい。同じ
マイルCSでも、昨年は天皇賞馬
カンパニーが勝ち、今年は1200m、1400mで好成績を残してきた
エーシンフォワードが勝った。
昨年のタイムは1分33秒2で、今年は1分31秒8のレコード。昨年②着の
マイネルファルケは今年は逃げることができず、シンガリの⑱着。同じ場所、同じ距離でレースをしても出走メンバーが違うだけで、こうも
性格の違うレースになってしまうのだ。
そんな中、昨年③着に続いて今年も参戦し、大外からグイグイと④着まで伸びた
サプレザの走りは称賛に値する。遅かろうが速かろうが、どんなペースにも対応できることを、これ以上ない形で示した。
社台ファームが購入したことは、さすがの慧眼と言うしかない。来年の
ヴィクトリアマイルにも、ぜひ出走してほしい。
②着
ダノンヨーヨーも十分に力を示した。こちらもペース不問の自在型。連勝こそ止まったが、将来は
歴史的マイラーとなれる可能性を秘めていることもしっかりとアピールした。
恐るべきは
スミヨン騎手の力強い追いっぷり。体を完全に左へと傾け、左腕で馬の首を押しまくり、右腕でムチを叩きまくって②着へと持ってきた。欧州トップ騎手であること、追える騎手であることは認識していたが、このすさまじい追いっぷりは衝撃だった。
岩田騎手の魂のこもったアクションとともに、深く印象に残った。