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あのハナ差には見えざる力が働いたと思えなくもない
文/編集部

「そりゃあ、芝1200mのレースで18頭立てなら、4頭くらい出ていてもそれほど珍しいことでもないか」。馬柱を見た瞬間、出走馬18頭のうち、サクラバクシンオー産駒が4頭いたことに気づいた時の感想がそれだった。

ただ、よくよく考えて見ると、すごいことである。芝の短距離というカテゴリーではあっても、このサンデー系が盛隆を極めるいまの日本競馬において、ひとつの重賞レースに非サンデー系の種牡馬として、4頭もの産駒を送り出すというのは。

しかも、ダッシャーゴーゴーが1番人気、スプリングソングが2番人気で、スカイノダンにしても6番人気と、4頭のうち3頭が上位人気に支持されていたから、なおさらである。そのキャリアも島倉千代子さんの歌が頭に浮かぶくらい『人生いろいろ』という感じがする。

ダッシャーゴーゴーは重賞でなかなか勝ち切れずにいたが、今年9月のセントウルSで待望の重賞初制覇。ところが、次走のスプリンターズSは2位入線を果たしたが、サンカルロの進路を妨害したため④着に降着となった。人生、良い時もあれば悪い時もあるということか。

スカイノダンは3歳6月とデビューが遅かったが、4歳を迎えてメキメキと頭角を現し、今年8月の北九州記念で②着、この京阪杯も④着と好戦した。まだ逃げたことがないという、サクラバクシンオー産駒としては珍しい(?)タイプだが、デビューから中7週以内の間隔で17戦消化しているタフネスぶりに脱帽である。

そのスカイノダンとは対照的に、エーシンダックマンデビューから14戦すべてで逃げている。しかも、同型との兼ね合いがより難しそうな短距離において。これは前例がない記録ではないだろうか。今回は⑪着に失速し、重賞タイトルには手が届いていないが、これからも己のスタイルを貫いてほしい。

そして、今回勝利したスプリングソング。デビューから3連勝し、キャリア4戦目のNHKマイルCで⑥着だったことから、重賞タイトルはすぐ手にできるだろうと思った。だが、その後は今年10月に戦線復帰するまで、08年京洛S(OP特別)10年長岡京S(準OP)を制したが、重賞では連対もなかった。

その間の重賞成績は08年セントウルS③着、08年京阪杯③着、08年阪神C④着、09年シルクロードS⑭着、09年高松宮記念⑨着。しかも、09年高松宮記念の後に屈腱炎を発症してしまい、1年7ヵ月もの長期休養を余儀なくされた。

『人生山あり谷あり』というが、それにしても、競走馬にとって、屈腱炎によって1年7ヵ月もターフから離れることは、試練というにはあまりにも過酷過ぎる。

だが、スプリングソングは1年7ヵ月ぶりだった長岡京Sで完勝すると、返す刀でこの京阪杯も制してみせた。エーシンダックマンが引っ張る展開を好位で流れに乗り、直線では外から伸びてきたケイアイアストンと競り合いながらゴールを通過。

レース後のインタビューで池添騎手「ゴールした時は②着だと思った」と語っていた通り、外のケイアイアストンに交わされたと思ったが、渋太く盛り返してハナ差で先着。デビューから約2年10ヵ月、屈腱炎を克服しての待望の重賞初制覇となった。

もちろん、屈腱炎を克服できたのは、スプリングソング自身の努力に加え、復帰を目指してサポートした人間の尽力があったと想像できる。ただ、感傷におぼれているつもりはないが、あのハナ差には見えざる力が働いたと思えなくもない

11月23日、スプリングソングの祖父であるサクラユタカオーが老衰のため、28歳でこの世を去った。サクラバクシンオーをはじめ、活躍馬を数多く送り出した内国産種牡馬のエースだったが、屈腱炎を克服してターフに戻った孫を、祖父がそっと後押ししたというのは考え過ぎか。

スプリングソングの素質から言えば、遅すぎた春の到来となったが、来年にはもう一段上の春を目指すことになるだろう。ショウナンカンプに続く、サクラバクシンオー産駒2頭目の平地G1ウイナーとなれるのか。ひとまず、楽しみな1頭がスプリント戦線に帰ってきたことを喜びたい。