栄光に向かって走る男のひたむきさは今後も刮目する価値あり
文/編集部
「今年は小倉で行われるけど、中日新聞杯だけにオートドラゴンが来るんじゃない」。
「先週の鳴尾記念では3歳馬が馬券圏内を独占していたし、この中日新聞杯も3歳馬が来ると思う」。レース前は日本のあちこそでそんな話がされていたと思われるが、どちらも自分がレース前に抱いた感想だった。
前者は、冗談で流されてしまいそうだが、
中日新聞杯は
前走で連対していた馬が目下3連勝中で、今回の出走馬18頭のうち、前走で連対していたのは
オートドラゴン(⑩着)、
ダンスインザモア(⑫着)、
シゲルタック(⑭着)だった。3頭とも馬券圏内には届かなかったが、それで
オートドラゴンに注目したのだ。
後者は、先週の
鳴尾記念の結果に加え、芝2000mのハンデ戦に条件変更された06年以降、
3歳馬が06~08年で3連勝していたから。今回の出走馬18頭のうち、3歳馬は
トゥザグローリー(①着)、
コスモファントム(②着)、
ゲシュタルト(③着)だった。
結果は、
「3歳馬が来る」というイメージが現実のものとなったが、まさか
鳴尾記念に続き、
3頭揃って馬券圏内に入るとは。いくら前走がG1だったとはいえ、3頭とも掲示板外の⑥着以下に負けていただけに、揃いも揃ってきっちりと巻き返して来るとは思いも寄らず。
いずれにしても、今年は舞台を小倉に移して行われたが、それでも3歳馬に軍配が上がった。
「偶然は2回続いても3回は続かない」という自分の理念に従えば、3歳馬が3頭揃って好走したことは、
偶然ではない事実だと言える。
06~09年の4年で③着以内に入った3歳馬は6頭いて、いずれも
牡馬クラシックか
NHKマイルCに出走経験があったが、
トゥザグローリー、
コスモファントム、
ゲシュタルトもその条件を満たしていた。
G1戦線では掲示板外に負けていたり、3歳馬ということも相まってか、それほど重いハンデも課されない状況、G1戦線で強敵相手に揉まれてきた経験、3歳から間もなく4歳になるという成長期にあること。
そういったさまざまな要因が重なることにより、“偶然ではない事実”が起きるのだろう。
それはそれとして、勝った
トゥザグローリーは単勝2.2倍の1番人気が示す通り(2番人気は5.9倍で
ナムラクレセント)、
ここでは力が一枚上というレースぶりだった。
スタートから4F目、5F目に13秒4、12秒8というラップが並び、1000m通過は60秒8。そこからのラップは12秒1-11秒9-11秒5-11秒3-11秒1とゴールに向かって加速していく。普通に考えれば、上がりを34秒2でまとめた
コスモファントムが逃げ切る展開だろう。
ところが、
トゥザグローリーは向正面で内、内からポジションを上げ、3角では3番手、4角では2番手に取りつき、直線で
コスモファントムを交わして先頭でゴール。計時した上がり33秒6はメンバー中最速で、②着
コスモファントムに1馬身3/4差、③着
ゲシュタルトはそこからさらに3馬身差がついていた。
デムーロ騎手の好騎乗も光ったが、
トゥザグローリーは本当に強く、逞しくなったとしみじみ思う。大柄な馬体のせいもあってか、デビュー当初は
追われてからモタモタしたり、
ラジオNIKKEI賞や
アイルランドTでは
折り合いを欠いてしまう場面も見受けられた。
それが、
中日新聞杯では見事に折り合い、小回りコースの18頭立ての最内枠でも慌てず騒がず、ペースが遅いと見るや、内からスルスルとポジションを上げる自在性まで見せた。
デビューは今年3月と遅かったが、そこから
わずか9ヵ月、9戦目でこれだけの成長を遂げており、いかに濃密なキャリアを積んできたかが窺い知れる。
キングカメハメハ×トゥザヴィクトリーという良血の子息なのに、どこかドロ臭く、叩き上げといった雰囲気をまとっている感じがいい。
トゥザグローリーはこの後、
有馬記念に挑戦するプランもあるようだが、
栄光に向かって走る男のひたむきさは、これからも刮目する価値がある。