期待通りに、またとんでもない名牝が誕生した
文/後藤正俊(ターフライター)
世界的に
「牝馬の時代」が到来している。
エスポワールシチーが出走した
ブリーダーズCクラシックで、遂に
ゼニヤッタの無傷連勝記録が19でストップし、
レイチェルアレクサンドラとの
“世紀の女傑対決”が実現する前に引退が決まったことが大きく報じられたが、当日の
ブリーダーズCマイルでは
ゴルディコヴァがレース史上初の3連覇を達成して新たな
ヒロインとなった。
欧州では
08年凱旋門賞で
ザルカヴァが
26年ぶりの3歳牝馬Vを果たし、不敗のまま引退した。来日して
エリザベス女王杯を圧勝した
スノーフェアリーは
香港Cも連勝し来年はさらにブレイクすることが確実だ。
日本でも
ウオッカ、
ダイワスカーレット、
ブエナビスタ、
レッドディザイアなど、次々に
牡馬勝りの歴史的名牝が誕生している。牝馬ながらに
ダービー制覇を果たし、古馬になってからも牡馬混合G1を4勝もした
ウオッカのような名牝をもう二度と見ることはないのかと思っていたら、その引退からわずか半年後に、
天皇賞(秋)を圧勝し、降着になったとはいえ、
ジャパンCでも強烈な強さを見せつけた
ブエナビスタのような馬が登場してきたのだから、これはもう偶然とは言えない。
はっきりとした理由は分からないが、サラブレッド全体のレベルアップが進み、
セックスアロワンス(日本の3歳以上は2kg)が牝馬有利に変わってきたと考えるのが妥当かもしれない。そうだとすれば
条件の見直しが行われない限り、まだまだ
牝馬の時代は続いていくだろう。
その面でも、次代女王を占う
阪神JFは例年以上に注目のレースとなった。コースが改修された06年以降、その勝ち馬は
ウオッカ、
トールポピー、
ブエナビスタ、
アパパネとすべて翌年
クラシックを制覇している。
朝日杯FS以上に
「名馬への登竜門」になっていると言ってもいいのかもしれない。
その期待通りに、またとんでもない名牝が誕生した。単勝1.6倍の圧倒的な1番人気に推された
レーヴディソール(父アグネスタキオン、母レーヴドスカー、栗・松田博)は同厩舎、同馬主の先輩
ブエナビスタにまったく見劣らないパフォーマンスを披露した。
課題だったスタートでやや立ち遅れたものの、スローな流れでもしっかりと折り合い後方待機。前を進む2番人気
ダンスファンタジアが
終始引っ掛かっていたのとは対照的な姿で、この3角手前の時点で
福永騎手はもう勝利を確信していたことだろう。
中団11番手のまま4角に入り、GOサインが出されると
ケタ違いの末脚。独特の前脚を高く跳ね上げるような
“のだめステップ”で、手前を変えても
ブエナビスタのようにヨレることもなく、舞うようにゴール板を駆け抜けた。
②着
ホエールキャプチャとの着差は半馬身だったが、まったく危なげのない半馬身差。末脚をセーブできずに2馬身半突き離した
ブエナビスタよりも、むしろ余裕を感じさせるような内容だった。
1分35秒7の勝ち時計は
ブエナビスタよりも0秒5、
ウオッカより2秒6遅いが、良馬場発表でもかなり柔らかな馬場状態だったこと、1000m通過が61秒2を要したスローペースを考えれば何ら問題ない。
アグネスタキオン産駒で450kgの馬体からも明らかに
切れ味の鋭さが最大武器のはずで、時計のかかる馬場状態でもこの強さを見せたのだから、パンパンの良馬場ならさらに
切れるとも考えられる。
デビュー戦では直線の短い札幌コースで4角7番手からあっさり差し切り勝ち。2戦目の
デイリー杯2歳Sでは大外枠、4角でも外に大きく振られながら牡馬相手に重賞制覇を果たしている。
無傷の3連勝でのG1制覇は“新女王誕生”と新聞見出しが付いても、大袈裟ではない。
半姉
レーヴダムール、半兄
レーヴドリアンがともに高い素質を持ちながら夭逝し、半兄
アプレザンレーヴも故障で引退を余儀なくされた。父アグネスタキオンも早期引退、早世している。
体質の弱い血統が今後の不安材料に思えるが、この3戦を見ている限りは
兄姉父の分まで元気、丈夫さをもらって生まれてきたようにも見えてしまう。
牝馬にスターがいると競馬が華やぐ。しかも、この
阪神JFは①~③着がすべて
芦毛馬だった。
「牝馬の時代」に加えて
「芦毛時代の再来」。2011年の競馬が盛り上がる要因が詰まった
阪神JFだった。