芝1400mはスペシャリストを信用すべし
文/編集部、写真/川井博
阪神Cは06年に創設され、
5回目にして早くも2勝を挙げる馬が誕生した。昨年は
デムーロ騎手で制した
キンシャサノキセキが、今年は
スミヨン騎手で快勝し、これで
3度目の芝1400m重賞制覇(昨秋の
スワンSも制している)となった。
昨年の勝ち時計は
1分20秒4で、今年は
1分20秒3。ほとんど同じだが、その内容は大きく違っていた。
昨年は、
ドラゴンファングが逃げて後続もそれに続き、淀みない流れになって
差し決着になっていた。
一方、今年は、
レッドスパーダが逃げてスローに落とし、先行した馬と内を回った馬が上位入線を果たす形になった。
ちなみに、今年の前半のペースは
34秒6-
45秒8で、同日の2歳未勝利戦(阪神3R)が
34秒2-
46秒0。2歳の未勝利戦と古馬のG2が似たようなペースというのだから、
どれだけ遅かったかが分かるだろう。
キンシャサノキセキはそれぞれのレースでどういう走りをしたかと言うと、昨年は
スタートで出遅れ、外を回って押し上げて
直線で差し切った。
今年は、序盤に緩いペースで
行きたがる場面を見せ、その後に前に馬を置いて折り合い、直線で一完歩ごとに差を詰めて
レッドスパーダを捕らえてみせた。
出遅れたのがハイペースだった昨年で、スローになった今年じゃなくて良かったという印象も受けるけど、それにしても、どちらも
完璧とまでは言えないレースぶりで勝利を収めるのだから凄い。
G1馬なのだから驚くべきことではないのかもしれないが、
芝1400mのG2では力が違ったということなのだろう。
戦前、今回の上位人気馬の顔ぶれを見た時、今春の
阪神牝馬Sと似た印象を受けた。
阪神牝馬Sの1番人気はマイル戦で3連勝中だった
ラドラーダで、2番人気が
ワンカラット、3番人気が
ヒカルアマランサス、4番人気が
ブロードストリート、5番人気が
プロヴィナージュだった。
この5頭の中で、500万クラス以上の芝1400mで勝ったことがあったのは
ワンカラットだけ。そして、結果は、前走で
牡馬相手に芝1400mのOP特別を制していたアイアムカミノマゴが2馬身差で快勝し、5番人気以内で馬券圏内に入ったのは
プロヴィナージュ(②着)だけだった。
今年の阪神Cは、優勝した
キンシャサノキセキが2番人気で、1番人気と3番人気は
芝1400mが初めてだった
ゴールスキーと
リーチザクラウン。4番人気は芝1400mでも勝ち鞍のある
ファリダットだったが、5番人気は
この距離が初めての
レッドスパーダだった。
1~5番人気の過半数が上級条件の芝1400mで実績がなかった。
阪神牝馬Sと
阪神Cは、そんなところが似ていると感じたのだ。
もちろん、
レッドスパーダがもう少しのところまで粘っていたのだから、一概にこの距離が未経験の馬がダメということではないのだろう。ただ、優勝したのが
キンシャサノキセキで、その走りを見ると、やはり
この距離はスペシャリストを信用すべしとの境地に達する。
そう言えば、今年の
スワンSを
マルカフェニックスで優勝した
福永騎手が、レース後のインタビューで
「1200mだと忙しくて、マイルだとちょっと長い。1400mがちょうどいい」という趣旨のコメントをしていた。
競走馬の中には、確実にそういうタイプが存在するのだろう。まあ、
キンシャサノキセキの場合は、前述したように完璧とは言えないようなレースぶりでこの距離の重賞を勝つのだから、
距離適性の幅がもっと広いことは言うまでもないのだろうが。
キンシャサノキセキは今回が
通算10勝目で、今年は
オーシャンS、
高松宮記念、
阪神Cと
重賞を3勝している。
7歳で芝重賞3勝というのは、90年以降では、
オフサイドトラップ、
ダイワテキサス、
ダイワカーリアンに並ぶもの(7&8歳で3勝ということなら、
フジヤマケンザンと
タップダンスシチーがいる)。
高齢での芝重賞勝利といえば、もっと上に
カンパニーがいて、同馬は
7歳時に2勝、
8歳時に4勝をマークしている。来年、
キンシャサノキセキは
カンパニーを上回ることができるだろうか。
今回のレース後、休み明けで②着に粘った
レッドスパーダの
横山典騎手が「来年が楽しみ」とコメントしていたが、同じように、
8歳を迎える
キンシャサノキセキも非常に楽しみだ。
余談だが、
キンシャサノキセキの芝1400m重賞の3勝はいずれも
外国人騎手によるもので、
中央重賞を外国人騎手で制した回数(3回)としては、
第3位となる。
同じく
3勝をマークしているのは
シンボリクリスエスと
カラジで、
最多の4勝は
ネオユニヴァース(
デムーロ騎手で4勝)と
ゼンノロブロイ(
ペリエ騎手で3勝、
デザーモ騎手で1勝)となっている。
ネオユニヴァースと
ゼンノロブロイはサンデーサイレンス産駒で、
キンシャサノキセキ(フジキセキ産駒)も同じ父系だが、
キンシャサノキセキは
オーストラリア生まれの外国産馬だ。
なんとなく、
外国人騎手でいちばん多くの重賞を勝っているのは
外国産馬になってほしい気がするので(笑)、来年はこちらの記録更新も期待したい。