今年のラジオNIKKEI杯2歳Sには、2頭と2人の主役がいた
文/編集部、写真/森鷹史
クラシックの登竜門としておなじみのこのレースだが、今年の勝ち馬である
ダノンバラードもそれに続く資格は十分。来年に向けて、
前途洋々といえる勝ち方だった。
スローペースを中団でピタリと折り合い、4コーナー10番手から外に持ち出して一気に突き抜けた鋭い脚は、
父ディープインパクトを彷彿とさせるもの。最後は手綱を緩める余裕を見せて、
初重賞勝利を飾った。
切れ味で勝負するサンデー系の馬として、
メンバー中上がり1位の34秒7でこのレースを勝ったことは、実は非常に
大きな意味を持っていた。サンデーサイレンスが種牡馬デビューした94年以降、上がり1位でこのレースを勝ったサンデー系の馬は、
アドマイヤベガ(
ダービー)、
アグネスタキオン(
皐月賞)、
ザッツザプレンティ(
菊花賞)の3頭。
すべてクラシック勝ち馬となっている。
また、08年のこのレースの勝ち馬である
ロジユニヴァース、09年の
ヴィクトワールピサも、
メンバー中上がり2位のタイムでこのレースを制している。この2頭も言わずと知れたサンデー系のクラシック勝ち馬。
ダノンバラードも、無事であれば、
クラシック戦線で上位争いをしてくる可能性は高そうだ。
ところで、今年のレースは、
クラシックの登竜門とは別に、もうひとつのトピックを持っていた。
騎手、
調教師、さらには
勝ち馬の父までが大きな注目を集めたのだ。
ダノンバラードの
父ディープインパクトは、この勝利で
JRA通算40勝の大台に乗せ、ファーストシーズンサイアーとしては、サンデーサイレンスが94年に樹立した30勝を超える記録を打ち立てた。
今年種牡馬入りした
ディープインパクトにとって、これが
重賞初勝利となる。あまりに期待が高すぎて、重賞を勝つまでに時間がかかった印象さえあるが、実はそれほど遅くはない。他のサンデーサイレンス系のおもな有力種牡馬が、初重賞を制した時期を見ると分かる(カッコ内は初重賞を獲得した産駒の世代と、その時期)。
サンデーサイレンス(1世代目・2歳7月)
アグネスタキオン(1世代目・2歳9月)
マンハッタンカフェ(2世代目・2歳9月)
ネオユニヴァース(1世代目・2歳10月)
ディープインパクト(1世代目・2歳12月)
来年はサンデーサイレンスが打ち立てた
「2、3歳世代だけでリーディングサイアーを獲得」という大記録に挑むことになりそうだが、この勢いならそれも不可能ではないのではないか、とさえ思えてくる。来年以降にますます期待がかかる。
鞍上の
武豊騎手も、当然主役のひとりだ。骨折休養中だったために
“ディープ産駒初勝利”は他の騎手に譲ったが、
“重賞初勝利”は、父のすべてのレースで手綱を取った
武豊騎手にとって、譲れないところだっただろう。
過去、
武豊騎手が鞍上で芝2000mとなった後のこのレースを制した馬は、
アドマイヤベガ、
ヴァーミリアン、
ヴィクトワールピサの3頭で、
すべて後にG1馬になっている。来春のクラシックは、
武豊騎手にとってもっとも譲れないはずの
“ディープ産駒のG1初勝利”を懸けて戦うことになるだろう。
最後の主役は、
父ディープインパクトを管理した
池江泰郎師。来年2月に引退を控える
同師にとって、
ディープ産駒を重賞に出走させたのはこれが初めて。
ディープ産駒でG1を戦うという夢が叶わないのは残念だが、この馬の今後の活躍をもっとも強く願っているのは、
池江泰郎師かもしれない。
ディープインパクトを7冠馬に導いた
池江泰郎師と
武豊騎手のコンビが、
ディープインパクトと
ダノンバラードに初重賞勝ちをもたらす。
2010年のクリスマスに、競馬の神様は粋なプレゼントを用意していたようだ。