来年にも楽しみが大きく広がった有馬記念だった
文/浅田知広、写真/川井博
生まれ来るものがあれば去るものもあり。あのディープインパクトの産駒がデビューし、最後の最後、
ラジオNIKKEI杯2歳Sで初の重賞タイトルも手中にした2010年。そして
オグリキャップ、
スーパークリークと競馬ブームを支えた名馬が相次いでこの世を去った2010年。そんな年の締め括りとなる
有馬記念。断然の1番人気に推されたのは、
現役世代の代表格として今年の競馬を引っ張ってきた
ブエナビスタだった。
ジャパンCでの
降着処分などはあったものの、
実力ナンバーワンということは多くのファンが認めるところだろう。ただ、そんな名馬が勝つとは限らない、というのがこの
有馬記念でもある。
オグリキャップも、勝ったのは
タマモクロスがいた88年、そしてもう衰えたという声も大きくなっていた90年で、名実とも秋の主役だった89年は⑤着に敗退。
ブエナビスタの父・
スペシャルウィークにしても、
有馬記念では大接戦の末に
グラスワンダーの②着だった。
また、この馬の強さを認めた上で、果たして
小回り・中山がどうなのか、という
不安を口にするファンも少なくなかった。確かに、直線の長い東京や、京都・阪神の外回りに比べ、
中山や他場の内回りはいまひとつ。馬券圏内を外していないのに
「いまひとつ」とはハードルが高いものだが、なんと言っても、誰もが良い配当を手にしたい
有馬記念。1番人気馬に何か
ケチをつけて
「穴を買う理由」としたいファンも少なくなかったに違いない。
そんな、ちょっとばかり「いやらしい」ファンの想いと、
ブエナビスタという名馬を純粋に応援したいファンの想い。
有馬記念のゴール前は、背中を押したり引っ張ったり、
さまざまなファンの想いがまさにぶつかり合うような結果となった。
直線先頭から押し切りをはかる
ヴィクトワールピサ、そして、外から強襲する
ブエナビスタ。スロー再生でも、
ゴール板の前後ひとコマで態勢が入れ替わるほどの大接戦。勝利をものにしたのは、また別の想いもあったであろう、
ヴィクトワールピサだった。
イタリアで97年からリーディングジョッキーの座を獲得していた
デムーロ騎手が、日本でその存在感をファンに強くアピールしたのは03年。
ネオユニヴァースとのコンビで
皐月賞、
ダービーの二冠を制した年であり、そして特例まで設けられて騎乗した
菊花賞で惜しくも三冠ならず③着に敗れた年である。
その
ネオユニヴァースの初年度産駒は一昨年デビュー。今年、
デムーロ騎手は
ネオヴァンドームで
きさらぎ賞を制したが、昨年の
有馬記念は
アンライバルドで⑮着に敗退していた。
ヴィクトワールピサという相棒を得た今年は、なんとしても、という想いもあったに違いない。
ネオユニヴァース産駒のJRA通算勝率は先週までで8.4%、しかし、
デムーロ騎手が手綱を取ると26.7%。人気馬が多いとはいえ、今回もそんな好成績通りに、
ヴィクトワールピサの持ち味を引き出す見事な騎乗、手綱捌きだったと言えるだろう。
有馬記念と同じ中山コースということで注目されがちな
皐月賞だが、グレード制導入後、同年の皐月賞馬が
有馬記念で馬券圏内に絡んだのはこれがわずか5回目である。先輩となるのは、
シンボリルドルフ(①着)、
ナリタブライアン(①着)、
テイエムオペラオー(③着)、
ディープインパクト(②着)という、ここ30年ほどの日本競馬を代表する
名馬ばかり。
ヴィクトワールピサは果たして彼らのあとに続くことができるのだろうか。
また、
「強い3歳世代」を証明した③着
トゥザグローリー、④着
ペルーサ、そして残念ながら
取消となった
ローズキングダムなど、
3歳世代は逸材ぞろい。
さらに、スローな流れの中
「負けて強し」の競馬を見せた
ブエナビスタの
現役続行も忘れてはならない。
強いライバルがいてこそ名馬はより輝く。
オグリキャップの時代を少しばかり思い起こさせるような、そして
来年にも楽しみが大きく広がった今年の有馬記念だった。