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「持っている」騎手に導かれ、快速馬が久々に重賞の美酒
文/編集部(T)、写真/川井博

このレースが開催された日の深夜に行われたサッカー アジアカップ決勝で、日本代表が見事な優勝を決めた。長らく決定力不足と言われ、チャンスは作ってもゴールがなかなか決まらなかった日本代表が、今大会はすべての試合でゴールを決め、素晴らしい得点力を発揮した。

私自身も学生時代にサッカーの経験があるのだが、ゴール前の大チャンスで落ち着いて決めるためには、技術や瞬時の判断力はもちろん、落ち着きや強靱な精神力、さらにまで求められる。

今回のアジアカップでMVPに輝いた本田圭佑選手は、常々「自分は持っている」という趣旨のコメントをするが、日本代表も若い世代に代替わりして、「持っている」選手が増えたのかもしれない。

若い世代が「持っている」と感じたのは、この日のシルクロードSでも同じだった。22歳と若い藤岡康太騎手が、素晴らしい落ち着きと判断力を発揮し、さらに運も味方につけてパートナーのジョーカプチーノ優勝に導いた。

1番人気のジョーカプチーノは、いきなりスタートで出遅れてしまう。そこで私は「まずい。早く挽回して前に行かなければ」と思ってしまった。やはり、自分は「持っていない」ようだ。思い返すと、ゴール前の大チャンスであたふたして、あらぬ方向に蹴ることが多かった気がする(笑)。

しかし、鞍上の藤岡康騎手は落ち着いてゴールを決めるタイプだったようだ。無理に押して行くこともなく、ジワッと中団の位置取りを選択。そのあまりの落ち着きぶりに、「これは作戦で、最初から逃げる気はなかったのか?」とも思ったが、レース後に藤岡康騎手「(出遅れたが)すぐに切り替えて、後ろで折り合いをつけることを考えた」と語ったように、そうではなかったらしい。

その判断に馬も応える。4角10番手から上がり32秒6という、芝1200mの重賞の勝ち馬としては、90年以降で最速の末脚を発揮して、09年のNHKマイルC以来の重賞勝ちを収めた。

このレースは前半600mが34秒8、後半が33秒4で、ラップ的には決して先行馬に厳しい競馬ではなかったが、結果的に④着までを4角7番手以下の馬が占め、前崩れのレースとなった。近走の実績通りジョーカプチーノが逃げていたとしたら、果たして残れていたかは分からない。

今回はG1馬の実力もさることながら、パートナーを信じ、最後の直線に賭けた藤岡康騎手のファインプレーも大きかっただろう。もしかしたら、出遅れも幸運のうちだったのかもしれない

藤岡康騎手にとって、重賞で1番人気の馬に騎乗するのはこれが初めてだった。今回はその絶好のチャンスをゴール、すなわち勝利に結びつけたわけだが、実はこのほかにも、藤岡康騎手が最初、もしくは数少ないチャンスをものにしたエピソードがいくつかある。

まず、JRAデビュー戦で初勝利を挙げている(07年3月3日中京1R)。さらに、初の海外騎手シリーズ参戦となった09年のアジアヤングガンズチャレンジで、最初に騎乗したレースで勝利を収めている

実は、このレースは、シリーズの第2戦だったが、第1戦藤岡康騎手が騎乗する予定の馬が出走取り消しとなっていたのだ。しかもこの勝利が効いて、これが第1回だった同シリーズでも優勝を決めている。やはり藤岡康騎手「持っている」ようだ。そういえば、ジョーカプチーノで制したNHKマイルCも、G1ではわずか2回目の騎乗だった。

もちろん、藤岡康騎手だけでなくジョーカプチーノ「持っている」可能性も十分ある。

シルクロードSが2回京都の開催となり、高松宮記念の前哨戦に位置づけられた00年以降、1番人気でこのレースを制した馬は昨年までに3頭いた。01年トロットスターは同年の高松宮記念で勝利を収めていて、04年キーンランドスワン、05年プレシャスカフェも③着に入っているのだ。

ジョーカプチーノはこの系譜に続くことができるだろうか。今後のローテーションは未定とのことだが、この馬が本当に「持っている」のかどうか、今年の高松宮記念で確かめてみたい気持ちもある。