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ショウリュウムーンの中にも鬼が潜んでいた
文/編集部(W)、写真/川井博

いきなり私事で恐縮だが、今年3月で結婚4周年となる。同棲期間も含めれば、とはかれこれ5、6年くらい生活をともにしている。そうなると、ちょっとした動作や言動に機嫌の具合が察知できるようになるもの。向こうがどうかは分からないが、少なくともこちらはある程度、察知できるようになってきた気がしていた。

ただ、よくある些細な口喧嘩の先に、絵本を投げつけられるような状況が待っているとは想像もつかず。「怒らせたら怖い」という意識を植え付けられることとなったが、機嫌の具合の察知力もやはりある程度のレベルであって、まだまだ分からない部分のほうが多いのかな、なんて思ったりもした。

そんなことを考えたのは、京都牝馬Sを制したショウリュウムーンを見ていて。お笑い芸人のロッチ・コカド氏は道で前から歩いてきた人にいきなり腹を蹴られたことがあるらしく、あまりに突然のことで怒るよりも「なんでそんなことするんですか!? なんで!?」という言葉が出たそうだが(笑)、同じ心境だった。

昨年、チューリップ賞を制したショウリュウムーンだったが、その後は④⑰⑤⑯⑤⑨着と馬券圏外が続いていた。その中には折り合いを欠いたり、直線で内を突いて前が壁になることもあったり、スムーズさを欠いたレースも少なくない。

だが、前走の京都金杯(⑨着)は今回の京都牝馬Sと同じ舞台、京都芝外1600mで走ったもの。斤量53kgというのもまったく同じ。大外を回り、34秒2の上がりを計時しながら追い込み切れなかった前走のレースぶりに、先行決着で流れが向かった面があるにせよ、少し物足りなさを感じていた。

ところが、今回はどうだ。思いのほかペースが上がらず、レース上がりが34秒0と速くなった中、自己最速の上がり33秒3を計時し、馬群を割って楽々と突き抜けてしまった。

京都金杯は内にモタれていたので、それを矯正するため、今回はハミを替えて挑んだようだが、馬具を工夫したことが奏功したということか。それにしても、ここまで鮮やかな変わり身を見せるとは。

それまでの2勝は道悪の芝で、良の芝では[0.1.1.5]と未勝利だったし、自己最速の上がりも桜花賞で計時した34秒0だったから、「スパッとは斬れないタイプかな」と勝手に思い込んでいた。

だから、今回のショウリュウムーンの末脚を見て、「えっ!? なんで!? なんでそんな斬れる脚が使えるんですか!?」と思ってしまったのだが、思い違いも甚だしかった。

の中にが潜んでいたように、ショウリュウムーンの中にもが潜んでいた。豪脚という名の鬼が。比較対象が違うだろうという話もありそうですけど(笑)。ショウリュウムーンのレースぶりはよく観察していて、特徴を把握しているつもりだったが、それは“ある程度のレベル”に過ぎなかったということか。

見事な復活劇を見せてくれたショウリュウムーンだが、今回負かしたのは同世代の強力なライバルたちであり、昨年のヴィクトリアマイル②着馬のヒカルアマランサスであり、そういった相手を一蹴したレース内容は評価されてしかるべきだろう。

だが、いまのところ③着以内に好走しているのは京都阪神に限られている。その2場以外に戦いの舞台を移した際に、能力をフルに発揮できるのか。また、3勝はすべて牝馬限定戦であり、昨年暮れの鳴尾記念は⑤着だったが、牡馬相手にどこまで食い込めるのか。

今回の勝利によって、そういった新たな課題も浮き彫りになってきた感じだが、いずれにしても、重賞2勝目となったこの京都牝馬S「昇龍伝説・第2章の幕開け」を告げられたような気がする。ショウリュウムーンの今後に注目でしょう。

そしてまた、余談になるが、我がの気性を矯正できるハミがあれば、ちょっと試してみたいと思ってしまった(笑)。とりあえず、この原稿を書いたことは内緒にしておこっと。