トーセンラー&デムーロ騎手の絶妙なタッグが呼び寄せた勝利
文/編集部(T)、写真/川井博
坂の手前で早くも外から上がっていった
トーセンラー&
デムーロ騎手を見て、昨年の
中日新聞杯がフラッシュバックした人もいたのではないだろうか。と同時に自分は、
「あ、これも届くんだろうな」と、ゴールのはるか前にぼんやりと考えていた。
念のため説明しておくと、昨年の
中日新聞杯とは、1000m通過が60秒8という、
コスモファントムが繰り出した絶妙な逃げを、
デムーロ騎手騎乗の
トゥザグローリーが向正面からマクる競馬で差し切ったレースだ。
トゥザグローリーのコーナー通過順位は
8-10-3-2で、これを見ればどんなレースだったか想像していただけるだろう。
トゥザグローリーも、その後に
有馬記念で③着しているように、能力は高い。
中日新聞杯は
人と馬の絶妙なコンビネーションが光ったが、今回も同じで、直線を向くまでは
デムーロ騎手、直線では
トーセンラーの力、
どちらが欠けてもなし得ない勝利だったのではないだろうか。
デムーロ騎手の
ファインプレーは、スタート直後から見られた。レース後に
「外に出すために一度下げた」というコメントを残したが、
この日の京都芝は1~3枠の連対がゼロで、
外差し有利の傾向が強くなっていた。そのためか、
デムーロ騎手はスタート直後に馬を外に導いている。12頭立てで5枠6番からのスタートだったが、外に出すことははじめから決めていたようだ。
大逃げを打った
リキサンマックスも、1000m通過60秒2と、決して速くないペースで快調に飛ばした。おそらく
デムーロ騎手だけでなく、すべての騎手が
“ペースはそれほど速くない”と気づいただろう。
そんな中、いちばん最初に動いたのが、残り1000mの時点でまだ10番手前後にいた
トーセンラー&
デムーロ騎手だった。ゴールする時点では
リキサンマックスをクビ差だけ交わし、③着には
トーセンラーを上回る33秒2の末脚で2番人気
オルフェーヴルが差を詰めてきていたことを考えると、
これより早くても遅くてもトーセンラーが勝つことは難しかったかもしれない。まさに
絶妙なタイミングの仕掛けだった。
これは想像だが、直線を向いた時点ではるか前にいる
リキサンマックスを見ながら、
デムーロ騎手は
「できるだけのことはやった。さあ、ここからは君の仕事だ」という気持ちだったのではないだろうか。
そして、バトンを渡された
トーセンラーは、
デムーロ騎手の期待通りに、上がり33秒4の末脚で
リキサンマックスを差し切った。これは、ディープインパクト産駒の中で、
①着馬としては最速タイのタイムとなる。4コーナー4番手以内で上がり33秒4となると、
朝日杯FS②着馬
リアルインパクトの
新馬戦しかない。
騎手も素晴らしかったが、残り200mで10馬身近くあった差を逆転した馬の力もまた一流だった、ということだろう。
勝ち時計の1分47秒6は、
きさらぎ賞が京都芝1800mで行われるようになって以降、06年
ドリームパスポートの1分47秒4に次ぐ
史上2位タイの好タイム。01年以降の勝ち馬から
ネオユニヴァース、
ドリームパスポート、
アサクサキングス、
リーチザクラウンと、4頭の
クラシック連対馬を出しているが、今回の勝ちっぷりを見ても、
トーセンラーにとって
今後の展望が大きくひらける勝利だったと言える。
また今回は、1番人気
ウインバリアシオン、5番人気
メイショウナルトがハーツクライ産駒、3番人気
トーセンラー、4番人気
コティリオンがディープインパクト産駒で、サンデーサイレンス系新種牡馬の
覇権争いの縮図とも言えそうなメンバー構成となった。
結果、ディープインパクト産駒が①&⑥着で、ハーツクライ産駒は④&⑤着に敗れた。しかし、これで
決着がついたかというと、もちろんそんなことはない。それぞれの産駒の距離別成績を見ると、以下のようになる。
ディープインパクト
芝1600m(18勝、50.0%)
芝1800m(15勝、55.7%)
芝2000m(8勝、47.7%)
芝2200m(1勝、42.9%)
ハーツクライ
芝1600m(3勝、27.5%)
芝1800m(9勝、46.0%)
芝2000m(4勝、40.0%)
芝2200m(2勝、50.0%)
(カッコ内は勝利数、複勝率)
勝利数こそ水をあけられているが、複勝率を見ると、
ハーツクライは距離が延びてからが勝負ではないか。ハーツクライ自身の
有馬記念のように、この日より距離が延びる
皐月賞、
ダービーでディープインパクト産駒にひと泡吹かせる可能性は、まだまだ十分にあるだろう。