これぞトランセンドらしい横綱相撲と言える
文/安福良直、写真/川井博
個人的には
「ホッとした」というのが、今日の
フェブラリーSを見ての正直な印象だ。というのも、私、
サラブレから発売中の
『全部見せます中央競馬2010』の
ジャパンCダートの稿で同レースを賞賛し、しかも
「トランセンドは王座をキープし続けるだろう」という趣旨のことを書いた手前、ここは
トランセンドに勝ってもらわないと困るレースであった。
その一方で、
フェブラリーSは
1600m実績のある馬が強いレースでもあるが、
トランセンドはこの距離で勝ったことがない。それに、
藤田騎手は
逃げ宣言をしていたようだけど、東京のダート1600mを逃げ切るのは容易ではない。そんな
不安材料もあった。
ということで、悩ましい思いを抱きながらレースを見ることになったのだが、結果的には、
トランセンドらしい競馬というか、
ジャパンCダートと同じような流れとなっての
快勝劇だった。
トランセンドは宣言通りハナに立ち、前半4ハロンは47秒9。例年と比べると遅い方だが、ずっと隣に馬がいて
楽な逃げではなかったと思う。そのまま4コーナーをカーブして、襲いかかる
マチカネニホンバレ、
バーディバーディ、
フリオーソらを振り切ってゴール。
1分36秒4というタイムはそれほど
優秀ではないが、人気を背負いながらも堂々と先行し、他馬の挑戦を受け切って勝つのは
立派。これぞ
トランセンドらしい横綱相撲と言えるし、前走の
ジャパンCダートよりも余裕があったように思う。
調教の動きも
迫力が増していたそうだし、一度G1を勝ったことで、
ワンランク上のレベルに達した感がある。これで、
日本のダート王として堂々と
ドバイに行ける。今日は悩ましい思いでレースを見ることになったが、来月は
楽しみ100%で見ていいのではないだろうか。
トランセンドは自分の競馬で強さをアピールしたが、②着の
フリオーソは逆に、自分のパターンではない競馬をして強さを見せた。
こちらも先行して強い馬だけに、
トランセンドとどう折り合いをつけるかに注目が集まったが、スタート直後の芝のところで行き脚がつかず、後方からの競馬。完全な
負けパターンかと思ったが、直線の坂を上ってからの末脚は
見事だった。
最後の100mだけで前の馬を交わして②着。上がり3ハロンで36秒を切ったのは
フリオーソだけ。2歳時から
地方競馬のエースとして活躍し続けているが、
7歳になってまだまだ進化しているところがすごい。今度
トランセンドと戦うときは、小細工なしの先行力勝負が見たいけどね。
③着の
バーディバーディは、
ジャパンCダートのときとは違って中団から差す競馬。一瞬は
「やったか!」と思わせるシーンもあった。3歳春以降はなかなか勝てないが、
ジャパンCダートで
トランセンドに戦いを挑むなど、
レースを重ねるごとに存在感を増しているので、そのうちG1を勝てるようになるはず。
一方、
ジャパンCダートでの
バーディバーディのようなレースをしたのが、
マチカネニホンバレだった。最後は脚が上がって⑤着だったが、
トランセンドに外から
プレッシャーをかけ続ける競馬ができたのは収穫のはず。このところ勝てない競馬が続いているが、これは
再浮上へのきっかけになるだろう。個人的には
「今回のベストファイター賞」を差しあげたいところだ。って、
賞品は何もないけど。
今回は
エスポワールシチーや
スマートファルコンが不在で、メンバーのレベルは決して高いとは言えないのだろうが、
レース内容はダートG1らしい、力のこもったものになったと思う。
トランセンドが出るレースはこうなりやすい、とも言えるか。
今後も
トランセンドには横綱相撲をし続けていただいて、
相撲ファンを競馬に取り込むくらいの存在になってほしいね。