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本番の争覇圏内に名乗りをあげたと見るが、それには条件も!?
文/石田敏徳、写真/森鷹史

まずはこの場を借りて、今回の震災で被害に遭われた方々に心から、お見舞いとお悔やみを申し上げます。まさに未曾有の大災害に襲われた被災地の映像から目を背け、聞こえてくるニュースから耳を塞ぎたくなったのは、何も私ばかりではないだろう。

しかし、被災に遭わなかった者がいつまでも現実逃避しているわけにはいかないことも事実。今回の震災を受けて1週間、開催を見合わせた後、JRAが下した「西日本地区での開催再開」という判断には賛否の両論があるだろうが、競馬ファンの一人としてはやはり、競馬にできる、あるいは競馬を通じてできる復興支援もあると信じたい。

というわけで、当初の日程通りに行われることになった阪神大賞典。登録の段階では名前があったトゥザグローリー日経賞へ回ったうえ、断然の主役と目されていたトーセンジョーダンが前日に出走を取り消してしまい、春の天皇賞の行方を占う一戦としては“小粒感”を否めなかったメンバー構成だが、レースの中身は予想以上(?)に濃いものだった。

ハイレベルのレースを演出した陰の立役者はコスモラピュタである。大逃げを打ってスタンドを沸かせた昨秋の菊花賞と同様、果敢に先手を奪って後続を先導。序盤はソコソコの流れで引っ張り、隊列が定まってからはラップを落としてスタミナの温存をはかるというペース配分は、長丁場の逃げ馬の「常道」ともいえるものだったが、菊花賞と大きく異なっていたのはスパートに移るタイミングだった。

参考までに、コスモラピュタ阪神大賞典で刻んだ中盤1000m(残り2000mから1000m地点)のラップの推移を書き出してみる。

12秒8-12秒8-13秒6-12秒5-11秒9

残り800m地点からペースを上げた菊花賞とは違って、最後からふたつめ、すなわち残り1400m地点から早くも加速にかかり、次の1ハロン(残り1200mから1000mにかけて)では11秒台のラップが刻まれている。

豊かなスタミナを誇る反面、速い脚には欠ける印象の愛馬の持ち味を存分に引き出すため、丹内祐次騎手異例のロングスパートに打って出たことで、レースは持久力勝負をさらに一段進めた「消耗戦」の様相を呈した。その結果、炙り出されるように浮かび上がったのが、ナムラクレセントの長距離適性と地力だったのだ。

イレ込み癖があり、折り合いも抱える同馬だが、この日は序盤に少し行きたがるところを見せながらも、まずまずスムーズな折り合いで離れた2番手を追走。コスモラピュタがリードを広げにかかった向正面でも離されすぎず、しかし深追いもせずの構えでついていき、4コーナーで前を射程圏にとらえる。

直線に向いて、先頭に立ってからの伸び脚もしっかりとしており、3番手追走から懸命に追いすがろうとした1番人気のコスモメドウ3馬身半差に突き放して、完勝のゴールを駆け抜けた。

3分4秒4という勝ちタイムは2001年の覇者ナリタトップロードが記録したレコード(3分2秒5)に次ぎ、レース史上でも2位に相当する好時計。開催が1週空いて馬場状態良好だったぶん、時計が速くなった面を割り引いても、優に「水準以上」との評価を下せる。

異例のロングスパートを放った逃げ馬を自らつかまえたうえ、後続の追撃をまったく寄せ付けなかったレースの内容も、実に強いものだった。重賞はこれが初制覇ながら、菊花賞③着、一昨年の阪神大賞典でも③着、昨春の天皇賞は④着と豊富な長距離実績の持ち主。加えて、6歳の春を迎えて強化された感がある地力が、ベストと思える長丁場の消耗戦でモノをいった格好だ。

今回の結果を踏まえて春の天皇賞の展望へ目を移すと、懸念された斤量増を跳ね返して②着は確保したコスモメドウだが、完敗と映ったレースぶり、長丁場を連戦してきたローテーションからもこれ以上の上積みは望みにくい印象もある。

最後の伸び脚は目を引いたモンテクリスエス(③着)も、先行勢にとって厳しかった展開に乗じて差し込んだ印象が強くて高くは評価できず、本来なら実績最上位といえる存在のオウケンブルースリ、また、昨年の阪神大賞典の覇者トウカイトリックもともに、復活の燭光は見出せなかった

そんな②着以下とは一線を画した、中身の濃いパフォーマンスを演じたナムラクレセントは、本番の争覇圏内に名乗りをあげたと見る。ただし、それには条件がつく。持久力勝負と表現される程度の“普通の”長距離戦では依然、パンチ不足の印象を否めないだけに、この日と同様のタフなレースになること、である。

6歳の春に重賞ウイナーの仲間入りを果たした遅咲きの古豪が、もう一段のステップアップをはかれるかどうかのカギは、コスモラピュタ(準OPの身だけに出走できるかは分からないが)が握っているのかもしれない。