「なんて贅沢な前哨戦だったのだろう」と思う日が訪れそう
文/編集部(W)、写真/森鷹史
これは主観的な部分が大きいと思われるが、今回の
日経賞に近いイメージの重賞と言ってパッと思いついたのは、98年の
毎日王冠だった。
この時は
5連勝中だった
サイレンススズカが1番人気、デビューから
4連勝中だった
グラスワンダーが2番人気、同じくデビューから
5連勝中だった
エルコンドルパサーが3番人気。3頭とも
連戦連勝中で、なおかつ前走では
G1を勝っていた。
「こんな贅沢な前哨戦があっていいの!?」と思ったし、戦前の
ワクワク感、
白熱したレース内容はいまでも鮮明に記憶に残っている。ちなみに、この
毎日王冠と同日に行われた
京都大賞典(
セイウンスカイが逃げ切り勝ち)もそれに近いレースで、この1998年10月11日は自分の
競馬年表においてかなり
特別な日である。
それはそれとして、今回の
日経賞に対しても、
「前哨戦とするには持ったないくらいの3強対決」と感じた。正直、
トゥザグローリー、
ペルーサ、
ローズキングダムのうち、どれかが勝つのだろうけど、どの馬が勝つと断言できない、それくらい
上位拮抗の3強対決だと思っていた。
結果は、①着
トゥザグローリー、②着
ペルーサ、③着
ローズキングダムで決まり、
1→2→3番人気と人気順通りだった。その人気と着順だけを見れば
順当な決着なのだが、着差を見ると様相は少し異なる。
トゥザグローリーと
ペルーサの着差は
2馬身半、
ペルーサと
ローズキングダムの着差は
半馬身だったから。
単勝オッズは、
トゥザグローリーが
2.0倍、
ペルーサが
3.2倍、
ローズキングダムが
3.4倍で、ちょうど
単勝オッズと着差が比例したような格好だったが、ファンの皆さんの
慧眼ぶりには脱帽である。
脱帽であると同時に、
トゥザグローリーの
成長力にも驚かされるばかり。好位のインで脚を溜め、
メンバー中最速の上がり(34秒2)を計時して
ペルーサ、
ローズキングダムを寄せつけず。2頭が
休み明けであることや
ローズキングダムが
斤量59kgを背負っていた点を差し引いても、
完勝の部類だろう。
3走前の
中日新聞杯で
重賞初制覇を飾ったおよそ4ヵ月前と比較しても、その時からまたさらに
強くなっている印象がある。昨年10月に戦線復帰し、
アイルランドTから
有馬記念まで
中1~2週のローテーションで使われていたが、前走の
京都記念と今回が
中6週だったから、間隔を開けたことで
成長が促されることになったのか。
福永騎手はレース後のインタビューで、
「以前に自分が乗せてもらった時とは比較にならないくらい、馬がしかっりしていたので、今日はどんな走りを見せてくれるか、非常に楽しみにしていました。もともと緩さを持った馬でしたが、それがドンドンしっかりしてきたのだと思います」と話していた。
3歳3月のデビューからわずか9ヵ月半で、
有馬記念で
ヴィクトワールピサ(①着)、
ブエナビスタ(②着)と
同タイムの③着に食い込んだ事実。しかも、前記した
間隔の詰まったローテーションの中で、それを実現したというのは、
とてつもない離れ業だったことを意味するのだろう。
福永騎手からも
「(ヴィクトワールピサに)負けないくらいのポテンシャルを持った馬だと思います」と
最大級の賛辞が送られていたが、
いまのトゥザグローリーを端的に表現したものだと思わずにはいられない。
この日の
阪神競馬場には、2月まで
トゥザグローリーを管理していた
池江泰郎元調教師の姿も見られたが、自身の管理馬として最後の重賞制覇(
京都記念)を果たしてくれた
トゥザグローリーの順調な成長ぶりに、目を細めていたことだろう。
ちなみに、
ヴィクトワールピサが
ドバイワールドCを制したことで、
「強い4歳世代」はさらにその価値を高めた感じだが、この4歳世代による古馬重賞での馬券圏内独占は
10年鳴尾記念、
10年中日新聞杯、
11年日経新春杯、そして、この
日経賞で4回目となり、翌日の
大阪杯で5回目となった。
ここ数ヵ月で早くも5回目である一方、4歳馬による
日経賞での馬券圏内独占は、
池江泰郎元調教師が調教師免許を取得した
1978年以来のこと。
「強い4歳世代」を象徴するデータがまたひとつ加わった感じだ。
何年か経過したあと、今年の
日経賞は初めて関西圏で行われたという事実以上に、
「なんて贅沢な前哨戦だったのだろう」と、いま98年の
毎日王冠を振り返った時と同じような心境で回想する日が訪れるかもしれない。なんとなくそんな気がする。