その母系は社台グループの創成期から続いている
文/編集部(M)、写真/森鷹史
今回の
阪神牝馬Sでは、前走の
京都牝馬Sで
③着となった
サングレアズールが
2番人気となったが、
1&3番人気には前走で準OPを勝ったばかりの馬(
カレンチャン、
スプリングサンダー)が推された。これを見て、戦前は、
例年に比べるとメンバーのレベルは高くないとの印象を持っていた。
ところが、
その評価はレース後に一変させられることになった。
締まったペースとなり、勝ち時計は
1分20秒4。これは昨年の同レース(
1分20秒2・
アイアムカミノマゴ)には及ばなかったものの、
阪神芝1400mの古馬混合重賞において
5位タイになる速さであった。
阪神芝1400mの
コースレコードは94年の
スワンSで
サクラバクシンオーが叩き出した
1分19秒9で、同レース以外の古馬混合重賞(阪神芝1400m)では、
1分20秒1~1分20秒3の決着が3度あるだけ。
今回の連対馬(
カレンチャン、
アンシェルブルー)は、どちらも芝重賞で初の馬券圏内だったが、
今後の芝短距離重賞でも注目に値する存在と言っていいのではないだろうか。
直線の坂を登ったあたりでは、
カレンチャンと
アンシェルブルーの鼻面はほぼ同じ位置だったと思うが、最後の最後に
カレンチャンがグイッと伸びた。これにはちょっと
意外な思いで眺めていた。
道中の位置取りの差もあったのかもしれないが(
アンシェルブルーは外枠で勝負所で外を回り、
カレンチャンは最内枠でラチ沿いを走っていた)、競り合いになったら、
1400m以上で実績のないカレンチャンよりも、
マイル戦(
洛陽S)
からの臨戦だったアンシェルブルーに分があると思っていたからだ。
しかし、
カレンチャンは
アンシェルブルーを抜かせず、逆にその勢いを受け止めて跳ね返し、最後は半馬身の差を付けて押し切った。1400m戦でこの芸当をやれるのは、
単なるスプリンターではない証拠だ。「なかなかの娘さんだなあ」と思わずにはいられなかった。
息が入りづらい流れで競り合いを制するには、それ相応の
スタミナがあるはずで、
カレンチャンはその母(
スプリングチケット)が
トニービン×
マルゼンスキーという配合をされている。
トニービン×
マルゼンスキーの配合馬と言えば、ダービー馬
ウイニングチケットがいて、2000m以上の距離でもどんと来いという感じがする。事実、
スプリングチケットも2200mの準OP戦(
オークランドRCT)で勝利している。
ただ、
カレンチャンの場合は、母の血統ばかりでなく、
その母系全体に底力を感じるので、そのことを記しておきたい。
その母系はいわゆる
フォルカー系で、古くから日本に根付いている血統である。
カレンチャンの
6代前の母が
フォルカーで、その娘が
ブラックターキン、その娘が
シャダイウイング、その娘が
センシュータカラ、その娘が
カズミハルコマ、その娘が
カレンチャンの母の
スプリングチケットとなる。
シャダイの名前が見られることからも分かるように、この牝系は古くから
社台グループを支えてきた系統だ。
カレンチャンの兄に
スプリングソングがいて、非常に近い近親の活躍馬では
タケミカヅチがいる。
92年天皇賞・秋を制した
レッツゴーターキンも同牝系で、同馬の祖母が
69年のオークス馬シャダイターキンだ。
社台グループと言えば
ノーザンテーストを思い出す人が多いかもしれないが、同馬の誕生は1971年だから、
シャダイターキンが
オークスを制した2年後になる。社台ファームに初のG1(級)勝利をもたらしたのが
68年桜花賞の
コウユウとのことで(参考・『血と知と地』・吉川良著)、
この牝系は、そんな社台グループの創成期から続いてきているのである。
古い血統というのはとかく
重くなる、すなわち
時代を経るごとにスピード面で劣るようになりがちだが、昨秋の
京阪杯を制した
スプリングソング、そして今回の
カレンチャンと、
この牝系は卓越したスピードを保持している。凄いものだ。
スピードも
スタミナも有しているこのフォルカー系は、今後も枝葉を広げていくだろう。クラシックディスタンスで活躍馬を送り出してもまったく不思議ではないだけに、馬券を買う側はそんなことも頭に入れておきたいほどだ。
その母系を考えると、
カレンチャンは
古き良き大和撫子というようにも見えてくる。近年の日本競馬は、母系に
欧米の超一流血統を持つ馬が活躍するケースが目立つが、血統表に
カタカナが多い馬が活躍するのも、それはそれでまた楽しいものだ。