ワンダーアキュートが再び「リベンジ」を果たした
文/編集部(T)、写真/森鷹史
前走で
アンタレスSを制した
ゴルトブリッツが、単勝2.1倍とやや抜けた人気に推されたこのレース。結果は、その
アンタレスSで②着に敗れた2番人気の
ワンダーアキュートがリベンジを果たし、重賞3勝目を挙げた。
ダート路線は
「同じようなメンバーで戦っていて、変わり映えがしない」と言われることがある。しかし、競馬をスポーツとして見ると、
「リベンジ」という言葉に象徴されるように、何度も同じメンバーが戦うことが面白い。今回のレース結果に、改めてそう感じた。
「リベンジ(Revenge)」とは、「復讐する、かたきをとる」というような意味。現在、スポーツの世界で普通に使われるようになったこの言葉がメジャーになったのは、当時西武ライオンズ(現ボストン・レッドソックス)の
松坂大輔投手が使ったことがきっかけのひとつだった。
1999年4月、プロ入り直後の
松坂投手は、当時ロッテのエースだった
黒木知宏投手と投げ合い、0対2で敗れた。普通なら、「高卒ルーキーがエース相手に良く投げ合った」と褒められるところだが、
松坂投手はこの試合後に
「次はリベンジします」と宣言。次の試合でも同じ黒木投手と投げ合い、今度は1対0でプロ入り初の完封勝ちを収め、見事にリベンジを果たしたのである。
ワンダーアキュートは、これまでにもリベンジを果たしたことがある。09年の
ジャパンダートダービーで、初対決となった①着の
テスタマッタ、②着の
シルクメビウス(ちなみにこの2頭は今回も出走しており、それぞれ④着、③着)の
⑤着に敗れた。続く
レパードSでも、初対決の
トランセンドが①着、
シルクメビウスが4位入線(⑩着降着)で、
ワンダーアキュートは
⑤着と苦杯を嘗めた。
しかしその年の秋、この4頭が顔を揃えた
武蔵野Sでは、
トランセンドを⑥着、
シルクメビウスを⑧着、
テスタマッタを⑪着に下し、今度は
ワンダーアキュートが
優勝したのである。3頭まとめての見事な
リベンジだった。
そして今回。前走の
アンタレスSで、
ワンダーアキュートは1番人気に推されたものの、1000万と準OPを連勝してきた
ゴルトブリッツに1馬身3/4差をつけられて②着と、完敗を喫した。スタートでやや出遅れた
ワンダーアキュートは、前を行く
ゴルトブリッツとの差を最後まで詰められなかった。
ワンダーアキュートが「リベンジします」と思ったかどうかは定かではないが、続くこのレースでは、逆に
ゴルトブリッツより前、3番手の内々をキープ。4コーナーで
ゴルトブリッツ以下が外から上がってくるところでも、鞍上の
和田騎手はジッと追い出しを我慢し、直線入り口で前を行く
ランフォルセに並びかけると、残り200mで先頭に立って押し切った。勝ち時計の
1分53秒7はレコードタイムだった。
野球の巨人と阪神、サッカーの日本と韓国、相撲の大鵬と柏戸、F1のセナとプロスト(例えが古いものもあるが……)など、スポーツは
ライバル同士が切磋琢磨することで、お互いを高めることがよくある。馬同士がライバルと認識するかどうかはともかく、騎手や厩舎関係者は
「あの馬に勝つためには、どうすればいいか?」と考えるだろう。
ダートは芝に比べて路線の数が少ない分、同じメンバーが勝ったり負けたりを繰り返すことが確かに多い。しかしそれだけに、予想する材料が多くなって面白いとも言えるのではないだろうか。
今回、
ゴルトブリッツにリベンジを果たした
ワンダーアキュートだが、まだまだ
リベンジする相手は残っている。09年
ジャパンCダート(
ワンダーアキュートは⑥着)と今年の
名古屋大賞典(同②着)で敗れた
エスポワールシチー、昨年の
東京大賞典(同⑩着)で敗れた
スマートファルコンと、錚々たる面々だ。
この2頭は確かに強いが、ライバルとの切磋琢磨を繰り返してきた
ワンダーアキュートが、今度はどんな競馬をするか。我々も、「すでに勝負付けは済んだ」と考えていたら、痛い目を見るかもしれない。
そして、今回の
東海Sで敗れた
ゴルトブリッツは、今度は
自分がリベンジする番となった。
01年以降のこのレースで1番人気に推されて敗れた馬を見ると、01年⑤着の
ファストフレンド、05年③着の
タイムパラドックス、06年⑬着の
ヴァーミリアン、10年②着の
トランセンドと、このレースの前後にG1を勝った馬の名前がズラリと並ぶ、いわば
“G1馬キラー”と言ってもいいほどのレースなのだ。
ここで敗れてしまったのは残念だが、今後
ゴルトブリッツがこの系譜に続けるか。同馬にとっては、G1において先頭でゴールして初めて
「リベンジを果たした」と言えるのかもしれない。