馬も人間も……歳を取っても、気の持ちよう!?
文/編集部(M)、写真/川井博
不毛だと分かっていても、なんとなくしてしまう話のネタってありますよね。
先日、横断歩道で信号待ちをしていたら、
2人組みのOLが
「かっこいいけどお金のない男と、かっこよくないけどお金を持ってる男、どっちがいいか」という話をしていました。いつの時代でもネタになる
不毛な話です(笑)。
そんな話を小耳に挟んだ後、おっさんの年齢帯に入った自分たちは、
「歳を取っていいことは何かあるか、ないか」ということについて、激論を交わしてしまいました。これまた
不毛です。
不毛と分かっていながら、熱い話になってしまうんですよね。
結局のところ、
「それなりにかっこよくて、それなりにお金を持っている男がいい」という結論になったり、
「歳を取っても、気の持ちよう」みたいな、どっちつがずの結論になるのが常ですが、今回の
目黒記念の結果などを目にすると、
「気の持ちよう、という結論もあながち間違っていないんじゃないか」という気がしてきます。
優勝した
キングトップガンは、かつては
ダートを主戦場にしていた馬でした。4歳夏までに
4勝を挙げて準OP入りし、その後は芝に戻されて5歳春に
OP入り。人間で言えば、順調に20代を過ごした感じでしょうか。
ところが、その後は骨折などもあって低迷の時期が続き、
6歳(09年)に復帰してからはずーっと掲示板に載れない日々が続きます。いや、ホントに
ずーっと続いたんですよね。せっかくですから、その
ずーっとぶりを記してみましょう。
キングトップガンの6~7歳時(09~10年)09年4月:福島民報杯
⑫着〃年7月:函館記念
⑩着〃年8月:みなみ北海道S
⑪着〃年8月:しらかばS
⑥着〃年10月:京都大賞典
⑬着〃年10月:ブラジルC
⑨着10年1月:日経新春杯
⑩着〃年2月:アルデバランS
⑬着〃年3月:大阪城S
⑩着〃年4月:大阪-ハンブルクC
⑧着〃年4月:メトロポリタンS
⑥着〃年6月:函館競馬場グランドオープン記念
⑭着6~7歳時は[0.0.0.12]ですから、
暗黒の時代ですよね。でも、これで終わったわけではなく、今年2月に復帰してからも
⑭着(
アルデバランS)、
⑮着(
ダイヤモンドS)という結果でした。
この間、馬はどんな気持ちで走っていたのか、知る由もありませんが、その戦績のただ中にいたら、冒頭の
不毛の会話については、
「年を重ねても、いいことはない」という結論を即座に下していたように思います。
ところが、いまとなってはどうでしょう?
8歳春にして初めての
重賞タイトルを手にして、
「暗黒の時代」に見えた6~7歳時の戦績さえも、それがあったからこそ
8歳にして花開いた印象さえ受けます。
いや、もちろん、長い間、結果が出なかった時期は、関係者のみなさんは苦労をされたことでしょう。でも、
決してあきらめることもなかったのではないかと思います。そして、その結果、
「歳を取っても、気の持ちよう」が正解であることを証明してくれたように思うのです。
今回の
目黒記念で、
キングトップガンは
7番人気に推されました。前走の
メトロポリタンSが
11番人気(⑥着)でしたので、鞍上(
横山典騎手)の
プラスアルファに期待をした人も多かったのではないかと思います。
結果的に、
思わぬ先行策を取り、それが奏功する結果となったので、やはり
横山典騎手は違うと思わせられたわけですが、
横山典騎手はレース後、
「返し馬の感じで馬が前向きなのが分かった」という趣旨のことを話されていました。
スタート直後の映像を見返してみたら、
横山典騎手はそれほど押して先行をしているわけではなく、
キングトップガン自身が行く気を見せて先行馬の直後に付ける形になっていました。それを見て、やっぱり、年を重ねても、
気の持ちようなんじゃないかと思わせられたんですよね。
JRAの平地重賞の初優勝が
8歳以上だった馬は、近年では
テンジンショウグン(8歳、
98年日経賞)、
ゲイリーフラッシュ(9歳、
02年シルクロードS)、
ユキノサンロイヤル(8歳、
05年日経賞)、
メジロマントル(8歳、
05年鳴尾記念)、
ネイティヴハート(8歳、
06年オーシャンS)、
タニノマティーニ(8歳、
08年キーンランドC)、
ダンスアジョイ(8歳、
09年小倉記念)などがいますが、いずれも
直線の短いコースで成し遂げられています。
キングトップガンはそれを覆し、勝利自体が
3年1ヶ月ぶりだったということも賞賛に値すると思います。
08年に生まれた
現3歳世代の頂点が決められるレースと同じ週に行われた重賞が、
08年4月に勝って以来、勝ち鞍のなかった馬によって制せられたことは、
「敗れた馬たちも、まだまだこれからだよ」と言っているようで、やっぱり、いろいろなことは
「気の持ちよう」、そして本人の
努力次第なのかもしれないと思わせられた週末でした。