トウカイミステリーは華麗なアウトインアウト走法だった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
最軽量ハンデが
48kg(
タニノスバル、
テイエムキューバ、
メモリアルイヤー)で、最重量は
ヘッドライナーの
58kg。ハンデ戦らしいと言えばらしいが、今回は上下で
10kg差もあるハンデ重賞となった。
90年以降のハンデ重賞で、斤量48kgの馬もいて58kg以上の馬もいるのは、
25度目になる。それほど珍しいわけでもないが、以前の24回はすべて
1400m以上の距離だった。90年以降の1200m重賞では初めてのことで、今回の
北九州記念が難しいと感じさせられたのも、そういった側面があったからではないか。
しかも、
最軽量の馬と
最重量の馬がハナ争いを演じそうだったから、ややこしかった。ハンデ48kgの
メモリアルイヤーと58kgの
ヘッドライナーのことで、この2頭に加えて
テイエムオオタカもハナを主張してきそうだったから、さらに難易度が増した感じだった。いったいどの馬がペースを握るのか? そんなことすら、予測をしづらかった。
ただ、終わってみれば、先頭でゴールを駆け抜けたのは
差し馬の
トウカイミステリーで、
「何が逃げるのか?」ということに頭を使うよりも、
「ペースは速くなるんだから差し馬でしょ」と思考を早めにスイッチすることが重要だったと思わせられた。
詰め将棋のように理詰めで展開を読み、上位入線しそうな馬を絞り込んでいく作戦は、それはそれで楽しいし、的中した時の爽快感は格別のものがあるが、
大局を見てふわっとした流れに身を任せることも重要なのだろう。
勝った
トウカイミステリーは鮮やかな差し脚を披露し、鞍上の
北村友騎手はテン乗りとは思えない見事な騎乗ぶりだったが、そのことと同じくらい
地力上位の馬たちの走りに見どころを感じたので、まずはそちらを記しておきたい。
前半3Fは驚異の
32秒4だった。
函館スプリントSの前半3Fが33秒1で、それよりも0秒7も速く、
アイビスサマーダッシュの前半3F(32秒3)とほぼ同じだった。そんな激流を作り出して最後まで粘っていたのだから、
テイエムオオタカは
相当なスプリント能力を持つ馬と言えるだろう。
また、ハンデ58kgを背負い、ハナ争いに加わることができなかったものの、先行策を取って最後まで伸びていた
ヘッドライナーも地力の高さを見せた。ある意味で、戦前に予想していた時と比べて、
いちばん違う姿を見せられたのが
ヘッドライナーだった。
エーシンの牝馬2頭(
エーシンヴァーゴウ、
エーシンリジル)は、人気を背負って
正攻法の競馬を見せ、
負けて強しのレースぶりだった。今さら言うまでもないことかもしれないが、今秋の
スプリントG1でも期待を抱かせる走りだったと思う。
北九州記念は、スプリント重賞になってから
「前走連対の牝馬」がずっと馬券に絡んでいるが、今年の該当馬はエーシンの2頭だけだった。その期待に応える好走を見せてくれ、来年のこのレースも
「前走連対の牝馬」で軸は決まりだと実感した。ちょっと早いかもしれませんが、
「ありがとうございます」と先に御礼を言っておきます(笑)。
これらの実績&人気上位馬を捕らえて
トウカイミステリーが優勝したわけだが、もちろんハンデ52kgやハイペースの流れが有利に働いた面もあるのだろう。ただ、改めてレース映像を振り返って見たら、
北村友騎手が実に見事なレースぶりをしていたので感心した。
トウカイミステリーは
8枠15番という枠順で、最後に外から差してきたので、てっきり終始外を回って脚を伸ばしたものだと思っていたのだが、実は3~4コーナーでは馬群の中に入り、
距離ロスのないような進路を取られている。
序盤は枠なりで外→
3コーナー過ぎに馬群の中→
直線入口でも馬群の間→
残り100mで外、そして鋭伸、というような走りをしている。モータースポーツのいわゆる
「アウトインアウト」のような走りで、実に見事。華麗な走りだった。
調べてみると、
北村友騎手は
小倉芝1200mの特別競走で成績が良く、先週終了時点での複勝率が31.9%。回収率は単勝が127%、複勝が125%と妙味も高い。
小倉のスパイラルカーブも熟知していて、好成績を残しているのかもしれない。
トウカイミステリー自身が馬群の中で脚を溜め、切れる脚が使える馬だったからこその芸当だったとは言えるのだろうが、その脚を引き出した
北村友騎手も見事だった。ハイペースを先行して、それでも最後まで脚を伸ばした馬たちも見事、それを華麗な走りで差し切った
トウカイミステリーも実に見事なレースだった。