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この勝利は総合力でライバルたちを上回った結果ではないか
文/編集部(W)、写真/川井博

「強い馬」とはどんな馬なのか。若い競馬ファンは、脅威の末脚を武器に無敗で三冠馬に輝き、G1・7勝を挙げたディープインパクトと答えるかもしれない。かたや、古くからの競馬ファンは、ダ1000mでも芝3200mでも勝利したタケシバオーを挙げるかもしれない。

ディープインパクトタケシバオー顕彰馬なのだから、競馬の歴史本があれば、必ず登場するであろう一時代を築いた「強い馬」なのは間違いない。どちらも正解だと思う。ただ、「強い馬」はこれだとはっきり定義することはなかなか難しい。

それは食べ物の好みにも似ているだろうか。自分はラーメンが大好きで、年間の消費量は国民一人あたりの平均消費量を大きく上回っていると自負しているが、ウチの奥さんはまったくと言っていいほど食べない。逆に、パンは大好きで、「よくも飽きずに」と思うほど毎日のように食べている。

要するに、「強い馬」「好きな食べ物」も個々の主観に寄る部分が大きく、十人十色ということ。特に競馬は、距離や馬場(芝・ダート)によっていろいろと区分けされていて、また、歴代の名馬たちを集めて競走させることが不可能でもある。「強い馬」はこれだと、シンプルには決定できない面があるのは致し方ないだろう。

そう前置きした上で言わせてもらうと、自分が考える「強い馬」とは、コース、距離、馬場状態、流れなどといった条件を問わず、高いレベルで好走できる馬がそれである。なぜそんな話をしたかというと、ローズSを制したホエールキャプチャはそのイメージに近い馬だから。

ホエールキャプチャのキャリアを振り返ると、函館芝1200m、中山芝1600m、京都芝外1400m、阪神芝外1600m、東京芝1600m、東京芝2400m、阪神芝外1800mと、わずか9戦の中で7つのコースで走っている。しかも、9戦すべてで③着以内で、負けた5戦も勝ち馬から0秒2差以内と小差だった。

芙蓉S(①着)では逃げ切り、出遅れたファンタジーS(③着)やオークス(③着)では直線一気で追い込み、ローズSは課題の発馬を五分に出て好位で追走し、スローペースの中でも折り合いをつけて直線に向くと内ラチ沿いからサッと抜け出した。

桜花賞馬マルセリーナ16kg増に加え、道中で掛かり気味に先行した影響だろう、直線で弾け切れず⑥着。オークス馬エリンコート14kgの大幅増で、休み明けで良化途上だったのか、直線で伸びを欠いて⑩着。レース上がりが34秒台だった過去2戦は④④着だったので、スローペースの上がり勝負(レース上がり34秒1)もこたえたのかもしれない。

いずれにしても、G1馬2頭が掲示板外に終わった中、ホエールキャプチャはきちんと自分の力を発揮して勝利をつかんだ。G1では惜敗続きだが、レーヴディソールに0秒1差まで迫った阪神JF(②着)、大外を回って0秒1差まで追い込んだ桜花賞(②着)、スタートで後手を踏みながらも上位2頭と同タイムまで差し込んだオークス(③着)と、中身は濃い。

このローズSの勝利は、総合力でライバルたちを上回った結果であると思う。G1ウイナーの称号こそ得られていないが、能力がG1級であることは前記したG1・3戦のレース内容からも疑いようがないだろう。

前日最終でもレース本番でも、G1馬のマルセリーナ(2番人気)とエリンコート(3番人気)をおさえ、ホエールキャプチャが単勝で1番人気に推されていたのも、多くの競馬ファンからその能力を高く評価されていた結果でもあるのではないだろうか。

今回のローズSは1000m通過が61秒7のスローペースだったが、秋華賞は1000m通過が過去5年中4年で58秒台(残り1年も59秒2)と速く、今回と本番とでは、流れが大きく異なることも考えられる。だが、条件不問でどんな競馬もできるホエールキャプチャにとって、京都芝内2000mが初コースであることもペースの違いもさほど問題ないはず。

過去10年の秋華賞勝ち馬は、10頭中9頭が1~2番人気で、10頭中8頭はその後にG1で③着以内に好走している。秋華賞後、牡馬相手にG1勝ちを収めたスイープトウショウダイワスカーレットをはじめ、歴史的名牝と呼べる存在も少なくない。

近年の結果を見ると、「秋華賞は強い馬が勝つ」という格言も成立しそうな印象だけに、「強い馬」と思うホエールキャプチャ秋華賞でスタートを決めて流れに乗って競馬ができれば……優勝というシンプルな形で強さを示すことになるかもしれない。

それにしても、アヴェンチュラホエールキャプチャとお手馬が重なった池添騎手秋華賞でどちらに騎乗するのか。この秋、オルフェーヴルとともに牡馬三冠にも挑むであろうジョッキーの判断にも注目しておきたい。