初ダートでも、ヤマニンキングリーはきれいな顔のままゴールした
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
アグネスデジタルにとっては、今回の
シリウスSでの
ヤマニンキングリーの優勝は、
『待望の』重賞制覇と言えるのではないだろうか。
アグネスデジタルの産駒はこれまでに
JRA重賞で
8勝を挙げていて、短距離でも中距離でも、芝でもダートでも、勝ち馬を輩出してきていた。
芝と
ダートの両方のG1ウイナーであった父の仔どもらしく、産駒は
万能型が多いわけだが、
芝とダートの両方の重賞を制した馬はまだいなかった。
ヤマニンキングリーはご存知の通り、
ブエナビスタを破って
札幌記念を勝利したことがあり(ほかに
中日新聞杯も優勝している)、今回の重賞制覇で、父と同じく、
芝&ダートの重賞ウイナーとなった。だから、『待望の』重賞制覇ではないかと思ったのだ。
父の
アグネスデジタルは芝とダートを行ったり来たりして勝ち鞍を重ねたが、息子の
ヤマニンキングリーは今回が
初めてのダートだった。そのことと勝ち鞍から遠ざかっていた点(2年以上勝っていなかった)がどうかと思われたのだが、あっさりと
2馬身半差を付けた。あの勝ちっぷりを見せつけられては、
さすが“怪物”と言われた父の仔だと脱帽するしかないだろう。
JRAの
ダート重賞で、前走を
芝で走っていた馬が制したのは3年4ヶ月ぶりになる。前回の勝ち馬は
ヤマトマリオン(08年
東海S)で、それ以前は
ビッググラス(07年
根岸S)、
リミットレスビッド(06年
ガーネットS)になる。1年に一度あるかないかの出来事と言える。
ただ、
ヤマトマリオン、
ビッググラス、
リミットレスビッドの3頭は、いずれもそれ以前にダートで勝ち鞍を挙げた実績があり、
「砂は初めて」というタイプではなかった。
初ダートでJRAの
ダート重賞を制したのは、
メイショウボーラー(05年
ガーネットS)以来のことになり、その偉業は、90年以降だと
5頭しか成し遂げていない。その5頭は次の馬たちだ。
★初ダートでJRAのダート重賞を制した馬(90年以降)
| 年 |
レース |
馬名 |
| 90年 |
ウインターS |
ナリタハヤブサ |
| 94年 |
平安S |
トーヨーリファール |
| 01年 |
武蔵野S |
クロフネ |
| 03年 |
武蔵野S |
サイレントディール |
| 05年 |
ガーネットS |
メイショウボーラー |
地方交流重賞が整備された近年は、中央の
ダート重賞が初めてのダートという馬自体が少なくなっている面もあるのだろうが、それにしても少ない。
ついでに言えば、前記した5頭はいずれも重賞制覇時が
3~4歳で、芝での
キャリアが14戦以下だった。
ヤマニンキングリーは今年
6歳で、芝での
キャリアは27戦。これを考えると、今回の優勝は
ちょっとした歴史的快挙と言っても言い過ぎじゃない気がする。
初めてのダートを克服したのは、父の血も大きかったと推察されるが、馬の力を引き出した
武豊騎手のレースぶりも見事だったと思う。
初ダートの馬が内目の枠に入ると、当然のことながら
「砂を被った時の影響」を考えるが、今回の
武豊騎手はスッと2番手に付けると、終始
砂を被らない位置に馬を誘導した。ゴール前の写真を見れば分かる通り、
ヤマニンキングリーはきれいな顔のままゴールしている。
次走以降に再びダートを走る際、包まれて砂を被った時に問題ないのかどうかは分からないけれど、今回の勝利によって
ヤマニンキングリー自身の今後に
選択肢が増えたことは間違いないだろう。
前記した5頭(初ダートでJRAダート重賞を勝利した馬)は、その次走以降に再び
ダート重賞で勝ち鞍を挙げている。中には、
JCダートを圧勝した
クロフネ、
フェブラリーSを逃げ切った
メイショウボーラー、そして、
フェブラリーHや
帝王賞を制した
ナリタハヤブサがいるわけだから、
ヤマニンキングリーの
第2章も楽しみの方が大きいはずだ。
父の
アグネスデジタルは、JRAでは4大場(東京、中山、京都、阪神)で走ってすべての競馬場で勝ち鞍を挙げ、地方競馬では川崎、名古屋、船橋、盛岡で勝利している。他にも香港でも勝ち、ドバイに遠征して、
世界の11の競馬場で走った。
息子の
ヤマニンキングリーは、JRAでは函館と福島以外の8つの競馬場で走った経験があり、シンガポールに遠征したこともある。これからの
第2章が
前途洋々なら、父以上の数の競馬場で活躍する姿も見られるのではないだろうか。