ダークシャドウの末脚が斬れすぎたという感じだった
文/編集部(M)、写真/川井博
直線に入って前が塞がりかけた場面を振り返って、鞍上の
福永騎手はレース後に
「どうしようかなと思った」とコメントしていた。ただ、その話しぶりは、字面から受けるほどの
切迫感ではなかった。
もちろん勝利した後だったし、手応えも良かったからなのだろうが、実に冷静な話ぶりで、
ダークシャドウの末脚に対する厚い信頼感の方を強く感じるものだった。
レースは前半の1000mが61秒1で、上がり3Fが33秒6。開幕週の芝での少頭数競馬で、流れとしては
先行有利だった。
3番手追走から粘り込みを図った
リアルインパクトは、
安田記念の時のようには押し切れなかったものの、その上がり3Fは
33秒2で、決して止まってはいない(ちなみに
安田記念時は
34秒5)。
ダークシャドウの末脚が
斬れすぎたという感じだった。
ダークシャドウの上がり3Fは
32秒7で、これは90年以降の
毎日王冠においては2番目に速いもの。1位は05年に32秒6を記録した
テレグノシスで、同馬は②着だった。勝ち馬としては、
ダークシャドウが最速になる。
近年は1番人気の敗北が多い
毎日王冠において、人気に応えて勝利を収めたのはその
テレグノシス以来となる。と言ってもそれは04年で、稍重馬場だった。
良馬場の
毎日王冠で1番人気が勝ったのは、99年
グラスワンダー以来のことだ。
90年代後半における
毎日王冠では1番人気が勝利するケースが多く、97~99年は
バブルガムフェロー、
サイレンススズカ、
グラスワンダーと3連勝を果たしている。前述した
テレグノシスも含めてこの4頭はいずれも
G1馬だった。別定G2を1番人気で制するくらいだから当然と言えるのかもしれないが、
ダークシャドウも
G1級の能力があると言って過言ではないだろう。
それにしても毎度のことながら、
ダークシャドウは
ダンスインザダーク産駒としては異質な存在だなあと思わせられる。
エプソムCのこのコーナーでも記したが、
ダークシャドウは
大阪杯で
ダンスインザダーク産駒のデータを覆し、同産駒はJRAの芝重賞で休み明け(中9週以上)だと勝利した馬がいなかったが、それを
エプソムC(中9週)、
毎日王冠(中16週)と二度に渡って打ち砕いている。ホントにビックリです。
ダークシャドウは母の父がダマスカス系のPrivate Accountであるため、
エプソムCのこのコーナーでは「いったいどこから来たんですか!?」と記したが、その血統をもう一度よく見たら、祖母の父が
ダンチヒだった。これを見て、ピンと来るものがあった。
前述した
毎日王冠を1番人気で制した馬の中で、
ダークシャドウがタイプ的に似ているのはどの馬かと考えた時、
脚質や
破壊力から言って
グラスワンダーだろうと感じていた。その
グラスワンダーは母の父が
ダンチヒであった。
ダークシャドウも母系に入った
ダンチヒの血が強く出ていれば……近走での
爆発力や休み明けも苦にしない面も、合点がいく。
ダークシャドウが
ダンスインザダーク産駒として異質な存在であると考えれば、今後、
G1での同産駒のデータも覆せるかもしれない。
これまでJRAのG1での
ダンスインザダーク産駒は、[4.10.6.138]という成績が残されていて、4勝中3勝は
菊花賞(03年
ザッツザプレンティ、04年
デルタブルース、09年
スリーロールス)で、残る1勝が
安田記念(04年
ツルマルボーイ)だ。ちょっと驚きのG1制覇が多いような印象があるのではないかと思われるが、それもそのはず、すべて
5番人気以下での優勝なのだ。
ダンスインザダーク産駒はJRAのG1での成績が、
1~4番人気だと[0.3.2.24]で、
5~8番人気だと[4.6.3.39]、
9番人気以下で[0.1.1.75]となっている。上位人気の時の方が勝てていないわけだが、これは「自ら勝ちにいくと案外なことが多い」という同産駒の特徴とリンクする。
ただ、
ダークシャドウは今回の
毎日王冠を終えて1番人気での成績が
6戦5勝・④着1回となり、勝ちにいっての強さを見せつけている。G1で上位人気に推されて、その支持に応えて戴冠する。そんな
ダンスインザダーク産駒が出現するのも、
時間の問題と言えるのではないだろうか。