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勝ち馬が2頭いたと言いたくなるほどハイレベルだった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也

今年のスワンSには勝ち馬が2頭いた……と言ったら、言い過ぎだろうか。勝ったリディルと②着ジョーカプチーノの間には1馬身以上の差が付いていたから、着差から見れば適した表現ではないのだろう。でも、そう言いたくなるほどのレースだった。

逃げて②着となったジョーカプチーノは、昨年のスワンSでも③着に逃げ粘っているが、昨年と今年ではペースが違った

昨年は前半が34秒6-46秒3-57秒9というペースだったが、今年は34秒4-45秒3-55秒7。今回は、中盤以降にペースを緩めていないことがよく分かる。

言ってみれば、昨年が溜め逃げだったのに対して、今年は、「付いて来られるなら付いて来てみろ」という感じ。強気の競馬を見せて、事実、多くの先行馬たちが直線に入って伸びを欠いた。離れた3着争いが差し馬優勢になったのも、ジョーカプチーノが厳しいペースを築いたからだろう。

「勝ち馬が2頭いた」と表現したくなったのは、ジョーカプチーノがそのような淀みない流れを作り、それでいて1分19秒6という速い時計で走破したからだ。

芝1400m戦で1分19秒台の勝ち時計が出たことは過去に14度あるが、1分19秒6より速い時計は5回しか記録されていない。その5回中3回が夏の新潟開催の開幕週で、時計の出やすい条件だったと言える。

スワンSでは、96年にスギノハヤカゼ1分19秒3という時計で勝利していて、これには今回の勝ち馬のリディル(1分19秒4)も及ばなかったが、それでも今年は96年に次ぐ歴代2位のタイムだ。

ジョーカプチーノは自らペースを作り、それでいて1分19秒台で走破したのだから立派だ。タラレバを言っても仕方がないのは承知しているが、普通なら快勝しているようなレースだ。だから、今年のスワンSには勝ち馬が2頭いたと表現したかったのだ。

見事なレースを見せたジョーカプチーノが、それでも押し切れなかったのだから、優勝したリディルの勝ちっぷりは、いったい何と表現したらいいのだろうか? 「上には上がいた」ということで言えば、サクラバクシンオーノースフライトが①&②着となった94年のスワンSを思い起こさせられた。それほどまでにハイレベルなレースだったと思う。

リディルは今回が初めての1400m戦だったわけだが、手応え良く好位を進み、あまり激しく追うところがなくジョーカプチーノを交わし去った。最後は小牧騎手が手綱を抑えているように見えたので、もし追っていればレコードの樹立もあったのかもしれない。

1400m戦というのは独特のペースになりやすく、特にマイル以上の距離からの臨戦馬は戸惑うケースも珍しくないが、リディルはまったく問題なく、というか、むしろもっと速くても良さそうだった。

前述したように、今回はジョーカプチーノが楽ではないペースを築いていたのだから、それを難なくクリアしたリディルは、底知れないスピード性能を有しているのだろう。

レコードタイムが樹立されていれば、それはそれで喜ばしいことだったのかもしれないが、余裕を持ってゴールしたことは今後に向けて価値があったと言えそうだ。

リディルは、今秋のG1戦線に出走するには、今回のスワンSで賞金を加算することが必須条件だった。連対圏に入れなければ、G1の舞台でゲートに入ることも危ぶまれたわけだが、同時に、賞金を加算できたとしても、激闘で疲れが残れば、G1を戦う上でも難しい面が残されたことだろう。

賞金を加算し、さらに言えばダメージの残らないレースをする。それがベストだったと思われるが、果たして結果はどうだろうか。リディル完璧なまでにハードルをクリアしたと言えそうだ。

リディルはこれで5勝中4勝を平坦コースで挙げていて、京都芝では4戦3勝・②着1回となった。②着に敗れた洛陽Sは道悪馬場(稍重)だったので、良馬場であれば3戦負けなしだ。

母のエリモピクシーは京都でも阪神でも勝ち鞍を挙げた馬だが、芝での7勝はすべて良馬場で記録している。その全姉のエリモシックは良馬場の京都芝で2勝を挙げていて、そのうちの1勝が97年のエリザベス女王杯になる。

この一族にとって、良馬場の京都芝「約束の地」なのだろうか。マイルチャンピオンシップが行われる11月20日は、まずは晴天となることを祈りたいものだ。