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世界2位の貫禄を見せてくれたことこそ意義がある
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/森鷹史

これが「世界2位」の“顔”ということか。トランセンドが予想を覆した感のある逃げ切りで、史上初のジャパンCダート連覇を果たした。

阪神ダート1800mはスタートから1コーナー入り口まで303mしかない。トランセンドにとって、昨年のような「逃げ」が最良の形であることは判っていたが、大外16番枠を引き当ててしまったこと、南部杯JBCクラシックとこの2戦は2番手からの競馬をソツなくこなしていたことから、少なくとも2コーナーくらいまでは3~4番手の好位を進む競馬を見せるのではないかと、多くの評論家も予想していた。

だが、藤田騎手は発馬から押して先頭を取りに行った。「行って負けたら仕方がないというデキだった」というレース後のインタビューからも、当初から決めていた作戦だったと思われる。何のためらいもなく1コーナーへ向けて思い切り良く切り込んで行く。

コーナーに差し掛かるところで、外から猛然と先頭を主張するトランセンドの姿に、内のトウショウフリークニホンピロアワーズ池添騎手酒井騎手が手綱を控えてブレーキをかけた。2頭の首が左右に揺れた。審議ランプが点灯したのがいつだったのかは判らなかったが、審議になることは予想できた。

一瞬、1991年天皇賞(秋)メジロマックイーン降着となったシーンが頭をよぎったが、当時ほどの混乱にならなかったのは芝とダートのスピードの違いだけでなく、「世界の舞台で逃げを打ったトランセンドがハナを主張するのなら仕方がない」という意識が他の騎手の中にあったのかもしれない。実際、審議時間は極めて短く決着した。

この1コーナーでもう勝負は決していたように思えた。そのトランセンドを含めて有力馬の大半が先行脚質だったことから、かなりのハイペースになることも予想されていたが、“世界の”トランセンドが逃げたからか、誰も競り掛けない。

前半1000mは60秒9という、オープンとしてはスローに近い流れ。もう1頭の雄・エスポワールシチーは強気で鳴らす佐藤騎手が騎乗していたが、2番手のまま沈黙。直線で仕掛けても、逆に突き離されて②着も確保することができなかったから完敗だろう。

スタートで躓いて出遅れたワンダーアキュートが②着に追い込んだように、トランセンド以外の先行した有力馬は力を発揮できず、レースとしては凡戦の部類に入るものだったかもしれない。昨年に続いて1頭も外国馬が参戦しなかったことも「ジャパン」の看板からすると寂しい。だが、レースレベル云々よりも、トランセンドが改めて世界2位の貫禄を見せてくれたことこそ意義のあることだったと思う。

これまでダート競馬は芝に比べると、格下感が付きまとっていた。ひと昔前までは、芝で通用しなくなったり、スピード不足、脚元に多少の不安がある馬がダート路線に転向して賞金を稼ぐケースも見られた。やや頭打ちとなった芝オープン馬がダート戦に出走すると圧勝してしまうことも珍しくなかった。

ダート路線が整備されるにしたがってレベルは急激に高まり、いまや芝G1級が出走してきても勝負にならないほど住み分けがはっきりとしてきたが、それでもまだ格下感がぬぐえなかったのは、いまや常識にもなりつつあるトップホースの海外遠征が、ダート界では勝負ができるレベルにまだ達していなかったことも関係していたのかもしれない。

それだけに、トランセンドドバイワールドCで②着に粘り込み、芝でなくても世界に通用すると示したことは、ヴィクトワールピサ優勝に匹敵する価値があったと思う。

ヴィクトワールピサが休み明けだったとはいえ、ジャパンCで見せ場もないまま大敗したことはファンにとってショックだったと思うが、トランセンドは完全復活にはやや時間を要したものの、再びジャパンCダートで世界の走りを見せ付けてくれた。

トランセンドは来春もドバイを目指すだろうし、今後、トランセンドに匹敵するような馬はドバイ挑戦が規定路線になっていくのだろう。ダート競馬の格下感を完全払拭したトランセンドの意義は極めて大きなものがある