展開、作戦が完璧に噛み合ったマイネルキッツの復活勝利
文/編集部(T)
日本で
もっとも距離の長い平地競走である
ステイヤーズSは、しばしば
マラソンに例えられる。それはただ距離が長いというだけでなく、
マラソンと同様に、
ただ速く走るだけでは勝ちきれないところも共通点といえる。
長距離重賞は、
騎手の駆け引き、
ペースや
位置取りの妙など、
競馬の醍醐味が詰まっている。今回の
ステイヤーズSは、そんな魅力を存分に楽しませてくれるレースだった。
レースを制したのは
マイネルキッツ。道中は中団にいたが、3コーナー手前から仕掛け、残り600mで先頭に立ってそのまま押し切った。
3~4コーナーで
マイネルキッツに次々と交わされていく他馬が、交わされてはじめて
“しまった!”というような感じで追い出しているように見えるのは、気のせいだろうか。
しかし、時すでに遅し。09年に制した
天皇賞・春を思わせるような早め抜け出しで、昨年の
日経賞以来の勝利を飾り、復活を印象づけた。
レースラップを見ると、スタートして
6ハロン目から12ハロン目まで13秒台で、道中は長距離戦らしい緩いラップ。そこから
12秒9-12秒6-12秒9と続き、
マイネルキッツが先頭に立った残り600m以降は
12秒4-11秒9-13秒2でゴールしている。
レース後に
三浦騎手は
「最後は残せると思って、動きたいときに動いた」といった趣旨のコメントを残した。このコメントとレースラップから推測すると、
三浦騎手は
3400mのレースのような感じで乗っていたのではないか。
最後の1ハロンが13秒台に落ちていることからも分かるように、
“残り200mまでで先頭にいれば、差せる馬はいないだろう”ということだが、その読みは正しかったわけだ。
スタートで大きく出遅れ、道中はシンガリ追走となった
トウカイトリックが③着に入ったところを見ると、
差し有利のペースで展開が向いたのは確かだが、
仕掛けのタイミングなどを含め、
馬と騎手が見事に噛み合った勝利だったということができそうだ。
一方、②着は芝2200m以下で芽が出ず、芝2400mを使われるようになって開花した3歳馬
イグアス。道中は中団につけ、先に仕掛けた
マイネルキッツに連れて上がっていき、直線でよく差を詰めたが及ばなかった。
イグアスは重賞3勝馬
ディアデラノビアの半弟で、父は
ディープインパクト。
ディープインパクト産駒が芝2400m以上のOPで連対したのは、これが初となる。
3歳馬
イグアスが8歳馬
マイネルキッツと9歳馬
トウカイトリックに挟まれてゴールした形に、
“まだまだ若い者には負けん”と張り切るオジサンの姿を想像したが(笑)、長距離重賞はレース経験がモノを言う面もある。
90年以降、芝3000m以上の古馬混合重賞は87レース開催されているが、
勝ち馬の平均キャリアは19.6戦目だった。キャリアがひと桁台の勝ち馬は、06年
阪神大賞典を9戦目で制した
ディープインパクトなど、4頭しかいない。
イグアスも今回が
12戦目と、3歳馬としてはそれなりにキャリアを積んできた馬だが、
42戦目の
マイネルキッツ、
51戦目の
トウカイトリックに比べたら、まだまだ“ひよっこ”だったようだ。今回でステイヤーとしての資質は十分に示しており、来年の
天皇賞・春に向けて、これからの成長を期待したい。
話を
マイネルキッツに戻すと、同馬は次走で
有馬記念に向かうといわれている。そういえば、
マイネルキッツと同じ
国枝厩舎で、今回と同じようなマクる競馬で
有馬記念を制した
マツリダゴッホという馬がいたことを思い出す。
マイネルキッツも
中山芝の重賞は④④④②⑤④①①着と安定して上位争いをしており、“中山の鬼”といわれた
マツリダゴッホほどではないにしても、
中山は得意といえそう。09年には
有馬記念で⑤着に入っている。
ただ、今回は
マイネルキッツを差せる馬がいなかったが、
有馬記念では
オルフェーヴル、
ブエナビスタをはじめ、強烈な末脚を持ったそうそうたるメンバーが出走してくるだろう。
これまで
ステイヤーズS→
有馬記念を連勝した馬はいないが、
マイネルキッツが歴史を作る馬となれるだろうか?