ケイアイガーベラがどうしようもない強さを見せた
文/編集部(M)
JRAのサイト内に
「週末おでかけ情報誌 LUCKY WINS」というPDFファイルで見られる雑誌があり、その冒頭に
「渋谷の街で聞きました。ケイバの魅力を一言でいうと」という企画がある。
一般の男女15人が答えていて、
「直線一気の迫力」とか
「一攫千金」とか
「馬が美しい」とか、みなさんいろいろな回答をしているのだが、その中に、
「女が男に勝てるスポーツ!」と書いている女性がいた。
初めてこれを見た時は、
女性の中にはそういう視点で見ている人もいるのか、なるほどなあ、と感心したのだが、同時に、こんな風にも思ったものだ。
女(牝馬)が男(牡セン馬)に勝つシーンを見たいなら、ダート重賞はあんまり見ないほうがいいですよ、と。
牝馬が
牡馬相手の重賞で勝利するケースは、やはり
芝の方が多く、86年以降、
JRAのダート重賞で勝利した
牝馬は
15頭しかいない。中でも勝利するケースが少ないのが
中山競馬場でのダート重賞で、
牝馬は
[1.3.4.51]という成績が残されていた。
今回の
カペラSには3頭の
牝馬が出走していて(
ケイアイガーベラ、
レディルージュ、
アースサウンド)、それなりに上位人気に推されそうだったので、
「女が男に勝つシーンが好きな人は見ないようにしましょう!」と声を掛けようかと思っていた。ところが……レースは、そんなシーンを見たい人にとって
痛快極まりない形になった。
優勝した
ケイアイガーベラにとっては、砂を被らずに行けそうな大外枠はプラス材料ではあったのだろう。しかし、初めての
中山競馬場で、久しぶりの
1200m戦でもあり、いつも以上に対応力が問われることになるだろうと感じていた。
それが、テンの3Fが33秒7というペースでもまったく問題なく、というか、むしろ合うようなレース運びで、直線に入るとスッと抜け出して
セーフティリードを築いた。
阪神ダート1400mがベストの馬だと思っていたが、いやいや、
中山ダート1200mの適性も相当に高かった。
中山ダート1200mでの重賞はこれまでに
15回行われていて、
稍重以上の道悪馬場の時は4回中3回で1分10秒0を切るタイムが計時されている。稍重馬場だった今回も例外ではなく
1分9秒1という勝ち時計だったのだが、これまでの優勝馬はいずれも道中で
4番手以下に控えて差し切っていた。
これに対して今回の
ケイアイガーベラは
2番手追走から抜け出して勝利したのだから、他馬にとっては
どうしようもなかったと言える。2011年の
カペラSは、
ケイアイガーベラがどうしようもない強さを見せた。そう表現するのが正しいように思う。
前述したように
中山競馬場のダート重賞では過去に勝利した
牝馬が1頭だけで、
ケイアイガーベラは2頭目として名を刻むことになったわけだが、実は過去の馬と
ケイアイガーベラには
共通点がある。
ケイアイガーベラの以前に
中山競馬場のダート重賞を制したのは
ゴールドティアラ(
99年ユニコーンS)で、同馬は
阪神競馬場のダート重賞でも優勝している。
99年シリウスSと
00年プロキオンSで、どちらも阪神ダート1400mだ。
ゴールドティアラは
00年プロキオンSを
1分21秒9という芝のような時計で優勝しているのだが、これを破ってレコードを樹立したのが
ケイアイガーベラだった。
ケイアイガーベラは昨年の
プロキオンSで、
ゴールドティアラの時計を0秒1上回る
1分21秒8というタイムで優勝している。
阪神競馬場でのダート重賞では、
ゴールドティアラと
ケイアイガーベラの他にもう1頭、
牝馬で優勝したことがある馬がいて、それは
ブロードアピールだ。同馬は
01年プロキオンSと同年の
シリウスSを制している。
ブロードアピールは
中山競馬場のダート重賞にも挑戦したことがあり、
01年ガーネットSで②着となっている。実は、
中山ダート1200mの重賞で連対圏に入った
牝馬は、この
ブロードアピールだけだった。つまり、
ケイアイガーベラは今回の勝利により、これを上回ったことになる。
JRAのダート重賞での成績で見れば、
ケイアイガーベラは
ゴールドティアラや
ブロードアピールに匹敵する実力を有している、と言っても過言ではないだろう。
ゴールドティアラは00年の
南部杯で優勝したことがあるが、
JRAのダートG1には3度挑戦して、
00年フェブラリーSの②着が最高だ。
ブロードアピールは
JRAのダートG1には出走歴がなく、地方競馬場や海外では
01年JBCスプリントでの②着、
02年ドバイゴールデンシャヒーンでの⑤着という成績が残されている。
この2頭以外を含めても、
JRAのダートG1を
牝馬が制したことはまだなく、その成績は
[0.1.2.33]となっている。ダート路線で活躍する
牝馬にとっては、これが
最後に残された壁と言えるだろう。
ゴールドティアラや
ブロードアピールに匹敵する実力があると思われる
ケイアイガーベラには、ぜひ
JRAのダートG1に挑戦してほしいところだが、現状、
JRAのダートG1は
フェブラリーSと
JCダートだけなので、短距離で活躍する馬にとっては
距離面でのハードルが高すぎる嫌いがある。
ケイアイガーベラのような高いスプリント能力を有する
牝馬も出現しているのだから、この際、
JRAのダートG1にも
1200mなどのカテゴリを増やしてみたらどうだろうか。
牡セン馬ばかりでなく、強い
牝馬も多数出走して盛り上がる可能性もありそうだが?
その時は、
「女が男に勝つシーンが好きな人は見ないようにしましょう!」とは声を掛けず、
「歴史的瞬間が見られるかもしれませんよ!」と言うべきなのだろう。ということは、女性の来場者も増えるかもしれませんが……いかがでしょうかね。