独自視点で穴馬推奨!競馬予想支援情報【サラブレモバイル】

サラブレモバイル

メニュー

ログイン

これから様々な“初めて”を父にプレゼントしていくかもしれない
文/石田敏徳、写真/川井博


レースが終わった後、検量室の前で引き上げてくる関係者の会話に聞き耳を立てていたら、社台スタリオンステーションの徳武英介さんに声をかけられた。

「いやあ、シンボリクリスエスの仔がやっと芝のG1を勝ちましたよ」

そう聞いて反射的に抱いたのは“あれ、初めてだったっけ?”という疑問だった。産駒数の多さにモノをいわせている面もあるとはいえ、近年はリーディングの上位を常に賑わす存在で、コンスタントに活躍産駒を送り出してきたシンボリクリスエスだけに、芝のG1なんてとっくの昔に勝っているような気がしていたのだ。

で、シンボリクリスエスのG1勝ち産駒を改めて思い出してみたところ、まずはサクセスブロッケン、そして……え~と……あれ!? 記憶の底をいくらまさぐってみても、セカンド・ウイナーの名前は出てこなかった。

血統通の方なら先刻ご承知かもしれないけれど、これまではサクセスブロッケンが唯一のG1勝ち産駒だったのですね。少なくとも私にとって、それは非常に意外な事実だった。

種牡馬としてのシンボリクリスエスには、「万能型」という強みをまずは指摘できる。芝もダートもこなすし、距離の融通性も高い。

代表産駒のサクセスブロッケンはいわずと知れたダートのG1ウイナー。一方では、サンカルロのように高松宮記念で②着に食い込む産駒を出せば、ダイヤモンドSを制したモンテクリスエスのような長距離タイプも出る。適性という観点からは、これといった型にあてはめづらい種牡馬といえるのだ。

ただしその反面、産駒にはもうひとつジリっぽいイメージもつきまとう。息の長い末脚は使うものの、あとひと押しを欠いて勝ち損ねる。条件クラスで伸び悩む産駒には特にそんなタイプが多い。それは器用さに欠けるタイプが多いからで、さらにその理由を突き詰めて考えると、「馬体のデカさ」という要因に突き当たる。

そう、シンボリクリスエスの産駒には500kgを優に超える大型馬がとにかく多い。ただデカいだけではなく、その多くは均整の取れた、惚れ惚れとするような好馬体の持ち主なのだが、排気量がデカいエンジンは回転数が上がるまでに時間を要し、すなわち瞬間的な加速力では見劣るのが常。ジリっぽい産駒が多いのはそのあたりに理由があるのではないかと推測している。

2年前の暮れ、当歳のアルフレードと初めて対面したときに手塚貴久調教師が抱いたのも、「この馬は大きくなりそうだなあ」との第一印象だったという。

予感に違わずスクスクと(?)大きくなったアルフレードは、530kgという馬体重でデビューを迎え、出走馬中最速の上がりタイム(34秒1)を記録してこれを快勝。10kg絞れて出てきた次戦のきんもくせい特別ではさらに鋭いキレ味を見せつけ、32秒5という上がりタイムを記録して鮮やかな差し切りを飾った。

そのきんもくせい特別の後は短期放牧によるリフレッシュを経て、当初は次週のホープフルSを目標に調整が進められていたのだが、新馬特別を連勝した勝ちっぷりが良かったこと、放牧から帰厩した後、調教の動きを見ているうちに“大きなところへぶつけてみたい”との気持ちが次第に膨らんできたこと、さらには「大型馬のわりに器用な脚を使えるタイプなので、中山のマイルでも対応できるのではないかと考えた」(手塚調教師)ことから目標を変更。こうして、2歳王者決定戦への参戦が決まった。

で、前走からプラス4kgの馬体重で臨んだ朝日杯FS。いくら勝ちっぷりが良かったといっても戦ってきた相手や走破タイム等を考えれば、ファンが下した1番人気という支持は「過剰人気じゃね?」との思いを拭えなかっただが、レースはまったくの快勝であり、完勝だった。

好スタートを決めて好位のインに収まると、緩みのない流れを涼しい顔で追走。直線に向くと内に開いたスペースを突いて手応え通りの末脚を繰り出し、背後を尾行するように進んできたマイネルロブストに2馬身のリードを開いてゴールを駆け抜けた。

前2戦(スローの瞬発力勝負)とは一転したスタイルのレースにも難なく対応してみせたセンスの高さ、好位の内々で立ち回って鋭く加速したシンボリクリスエス産駒らしからぬ器用さからも、その前途には大きな期待が膨らむ。

ちなみに手塚調教師によると、「シンボリクリスエスの産駒にはヤンチャな性格をした馬が多いのですが、この馬は調教を重ねるに連れて入厩当初のヤンチャな面が影を潜め、人間に対して従順になってきたんです。僕が手掛けてきたシンボリクリスエスの産駒では、今までにいなかったタイプですね」とのこと。

ダンプカーのような巨体にスポーツカーのような加速性能も兼備した無敗の大器、シンボリクリスエス産駒らしからぬアルフレードはこれから、様々な“初めて”を父にプレゼントしていくかもしれない