フェデラリストは純粋な昇級戦で勝利した希有な存在
文/編集部(M)
理由あって、今回の
中山金杯は
携帯のワンセグで観ることになり、しかも
音を出せない状況だったので、小さな画面を静かに見守る形になった。
小さい画面であっても、直線で最初に抜け出ようとしたのが
ダイワファルコンであることは確認できた。ただ、その外から迫ってきたのが何か、一瞬分からなかった。「なんだ?」と思って目を凝らして見ると、勝負服が
黄色と黒の縦縞(社台レースホースの勝負服)であることを認識できた。そこで咄嗟に思ったのは、
「おっ、エクスペディションだ!」ということだった。
なぜ
エクスペディションだと思ったかと言うと、同馬は前走の
中日新聞杯が
初のOPクラスで、そこを休み明けで走って④着となり、今回は
叩き2戦目で
前走の経験も活きて好走できるだろうと踏んでいたからだ。
「やっぱり競走馬は経験が必要だよなあ」と思い、
「特に金杯はこういうタイプがよく来るんだよなあ」と感じていた。そして、ご丁寧に、こんな感想も抱いていた。
「金杯では、フェデラリストみたいなタイプをいちばん信用しちゃいけないんだよなあ」と。
レースのVTRが流れ、検量室前に戻ってくる馬が映し出されると、なぜか
緑帽の騎手の馬がクローズアップされていた。その時初めて
異変に気づき、画面を二度見した。そうしてようやく、自分が勘違いしていたことに気づいたのだった。
フェデラリストみたいなタイプを
中山金杯で信用しちゃいけないと思っていたのは、
昇級馬の成績があまり良くなかったからだ。その傾向は近年が特に顕著で、00年以降、
中山金杯を昇級で勝利した馬は07年の
シャドウゲイトしかいない。同馬以前の優勝となると、96年の
ベストタイアップまで遡る。
近年の
中山金杯は、勝利する馬に関しては
実績馬の方が多く、
昇級馬は
有利そうなハンデを背負いながらワンパンチを欠くケースが目立っていた。だからこそ、戦前は
「騙されちゃいけない」と思っていたのだ。
87年以降の
中山金杯(金杯・東)で、
昇級馬が勝利したのは、今回が
6度目になる。過去5度の優勝馬を列記すると、87年
トチノニシキ、92年
トウショウファルコ、95年
サクラローレル、96年
ベストタイアップ、07年
シャドウゲイトだ。この5頭に共通して言えるのは、いずれも
「純粋な昇級馬」ではなかったことだ。
シャドウゲイトは前走で1000万特別を勝ち、昇級というより格上挑戦で
金杯を圧勝したが、実は3歳時に
プリンシパルSで②着になっており、
ダービーや
菊花賞に出走していた。
OPクラスが初めて、という馬ではなかった。
ベストタイアップも重賞での出走歴があり、
サクラローレルは
青葉賞(G3)で③着、
トウショウファルコは
七夕賞(G3)で③着、
トチノニシキは
フェブラリーH(G3)で③着になったことがあった。
中山金杯で勝利してきた
昇級馬は、いずれもOPクラスで出走歴があり、大半の馬がそこで好走していた実績があったのだ。
これに対して
フェデラリストは、今回が
正真正銘の初OP。いくら中山芝で2戦2勝だったとは言え、多頭数の競馬で勝利したのも前走(
東京ウェルカムプレミアム)が初めてで、重賞のメンバーに入って上位人気に推されては、
ちょっとかわいそうだとも思っていた。本当にかわいそうなのは、
フェデラリストの実力を見抜けなかった
私の眼力の方だった。
フェデラリストは、今回、いくつもの不安材料を一掃して勝利したわけで、それだけでも驚きに値するが、その
レースぶりも見事だった。内を回って上手く抜け出て勝利したのなら、
「ジョッキーの好騎乗とハンデ差を活かして」という話もできたのだろうが、
フェデラリストは中団から外を回って動き、
ダイワファルコンとの叩き合いを制した。
横綱相撲と言っても良さそうで、
「恐れ入りました」という言葉しか出なかった。
フェデラリストの母は、言わずと知れた
ダンスパートナー。それだけに新聞などには
「良血」という文字も多数見られたが、同馬の産駒をずっと見てきた者としては、レース前に、
「本当に重賞でワンパンチが利くのか?」という思いも持っていた。
フェデラリストは
ダンスパートナーの6番目の仔どもにあたるが、兄姉のOPクラスでの成績は
[0.0.1.7]で、
ダンスオールナイトの
中山牝馬S③着が最高成績だった。「能力が高い」と評判になる産駒が多く、実際に複数の勝利を収める仔どもばかりなのだが、
OPクラスには壁があった。
フェデラリストは、今回、この壁をも軽々と越えて見せたのである。
いまや
名牝の代表格と言える
ビワハイジは、95年の
最優秀3歳(現2歳)牝馬で、同年の
最優秀4歳(現3歳)牝馬が
ダンスパートナーだ。
ダンスパートナーにとっては、
ひと世代下の
ビワハイジが母として実績上位に位置しているわけだが、今後は、これに並ぶ、あるいは逆転するチャンスが出てくるかもしれない。
フェデラリストが連勝をどこまで伸ばせるか、そして、どれだけのタイトルを手中にできるか。その活躍如何によって、
ダンスパートナーの名前も再度評価を集めていくことになりそうだ。