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時計の針を逆戻りさせたようなレースと内容になってしまった!?
文/石田敏徳

かつては12月の3週目に、中山の芝1200mという設定で行われていたフェアリーSが、「年明けのマイル戦」にリニューアルされたのは2009年のことだった。

そもそものきっかけはジャパンCダートの移設で、従来はジャパンCの前日に東京競馬場で行われていたジャパンCダートが暮れの阪神の開幕週に移設(2008年)→開幕週に行われていた阪神JFが2週目にスライド→2週連続で2歳牝馬限定の重賞を組むのはどうなのよ?→じゃあフェアリーSは年明けに移して、桜花賞に繋がるように距離もマイルに延長するべし、となって現在の形に落ち着いたのだ。いやもちろん、それは推測に過ぎないけれど、JRAの番組編成担当者たちの間でほぼ同様の議論が展開されたことは想像に難くない。

仮に「空き巣になる率が高い重賞ランキング」を作成するなら、トップにランクされるのは間違いなくこのレースと思われる。移設前のフェアリーSはまさにそんな重賞だった。

論より証拠というわけで、試しに移設前5年間(03~07年)の優勝馬を列記してみよう。マルターズヒートフェリシアダイワパッションアポロティアラルルパンブルー。さて、あなたは何頭覚えていましたか?

ちなみに、この5頭がフェアリーS以降のレースであげた勝ち星の総計はわずか3勝。しかもこれ、マルターズヒート障害未勝利であげた1勝を含んでの数字なのだ。そのマルターズヒートエルフィンSを勝ち、ダイワパッションフィリーズレビューに勝っただけで、あとは未勝利に終わっている。にしても「障害未勝利を含めて3勝」って、どんだけ先々に繋がらないレースだったんだ……。

ところが、リニューアルが実施された09年以降のフェアリーSは、明らかに様相が変わってきた。

新装された初年度(優勝馬ジェルミナル)こそ「姿かたちは変われども、中身は変わらず」というレースになってしまったものの、翌10年の①&②着を占めたコスモネモシンアプリコットフィズは現在も重賞戦線で活躍中

昨年にしても「ダンスファンタジアVSアドマイヤセプター」という超良血馬対決が話題を集めたし、②着のスピードリッパー、④着のピュアブリーゼオークスで⑤着と②着に食い込んだことを考えあわせれば、“空き巣”でも“先々に繋がらない”レースでもなかった。

ならば今年はどうだったのか。

正直、エントリーしてきたメンバーを見たときから、なんとなく微妙な感じはしていたのだ。デビューから3戦2勝、唯一の敗戦はトウケイヘイローに惜敗(③着)したくるみ賞というオメガハートランドはともかく、阪神JF⑩着のトーセンベニザクラと同⑮着のラシンティランテ「中心勢力の一角」と目されるメンバー構成。前2年に比べると出走馬の粒は明らかに小さめで、移設前やリニューアル初年度に近い印象を受ける。

で、案の定というべきか中身のほうも、あまり高くは評価できない内容になってしまった。2番人気の支持を集めていたパストフォリアが最初の一歩目に大きく躓き(ジャンプしてゲートを出たため)、この時点で圏外に去るという波乱の幕開けから、ラミアプリマベーラが注文をつけて先手を奪ったレースだが、前半1000mの通過ラップは60秒3とペースは上がらず、馬群は一団となって進む。

こうなると苦しくなるのが密集した馬群の外々を回らされた馬たちで、1番人気のオメガハートランドなどはまさにそのクチ。悪名高い中山マイルの外枠(7枠13番)がアダになって馬群の内に入り込めなかったうえ、4コーナーでは内の馬に張られてブレーキを踏まされる場面もあった。

これに対して、4枠8番という絶好枠をソツのない騎乗で勝利に結びつけたのがトーセンベニザクラ津村騎手だった。道中は中団馬群の真っ只中を追走。外へ持ち出す愚は冒さずに直線へ向くと、前にスペースができた瞬間を見逃さずにアクセルを踏み込む。ゴーサインを受けて鋭い反応を示した馬は、前々の内々で粘りこみをはかったマイネエポナダイワミストレスをスパッととらえてゴールを駆け抜けた。

この勝ち方ができるなら、前走の阪神JF(⑩着)でももう少し走れそうなものだが、その思いは柴崎調教師も同じだったという。

「いくら外を回ったといっても(阪神JFで)あれだけ負けるとは思わなかった。あんな馬じゃないし、このままではいけない。そう考えて今回は1週前に馬体重が減っていても調教を緩めず、直前までビシッと攻めたんです。今日の結果からすると、今までは少し馬を可愛がりすぎていたのかもしれないね」

調教メニューの強化によって身上の切れ味に磨きがかけられたわけで、確かに直線で披露した瞬発力に見るべきところはあった。ただそうはいっても、1分35秒5という勝ちタイムはいかにも平凡(前日の3歳未勝利が1分35秒1)だし、ロスの大きいレースを余儀なくされてしまったオメガハートランドあたりとは、展開ひとつ、枠順ひとつで着順が入れ替わりそう。そもそも阪神JFジョワドヴィーヴルに続いて、昨日のシンザン記念であんなパフォーマンスを見せられたばかりだしなあ。

というわけで、時計の針を逆戻りさせたようなレースと内容になってしまった今年のフェアリーS。ちなみに、柴崎調教師“先々への抱負”を引き出そうとする報道陣に対して、「今年の牝馬は強いのが多すぎる」というコメントを何度も繰り返し、苦笑交じりに抗議(?)してました。