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ルーラーシップに“足りないモノ”とは何なのか?
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也

4コーナー手前で、先に動いたナカヤマナイトルーラーシップが並び掛けにいった時、「ブライアンvsトップガンの96年阪神大賞典みたいになるんじゃないか!?」と、ちょっとだけ胸が高鳴った。

2kgの斤量差(ルーラーシップが57kg、ナカヤマナイトが55kg)があれば、好走歴のない距離(2200m)であっても、ナカヤマナイトルーラーシップ対等に渡り合えると思っていたからだ。

直線に入って2頭の馬体が併せられた時、「さあ、叩き合いだ! クビの上げ下げだ!」と思って身を乗り出した。しかし、その矢先、ルーラーシップあっけなく交わしていった

これほど「あっけなく」という表現が当てはまることはないんじゃないかと思うほど、決着はすぐに付いた。2頭の力差は歴然だったと言うほかないだろう。

昨年のAJCCを制したトーセンジョーダン天皇賞・秋を制してG1馬の仲間入りを果たした例を出すまでもなく、別定のG2を重い斤量を背負って快勝することは、すなわちG1タイトルに手を掛けたことにつながる。

ルーラーシップG2戦が、これで3戦3勝。初勝利はハンデG2(日経新春杯)だったが、その後は別定G2を斤量57~58kgで2連勝している(金鯱賞AJCC)。誰もが言うように、ルーラーシップに残されたのはG1タイトルの獲得だけで、実力的には指先が触れているぐらいのところまで来ている。そう言って間違いないだろう。

古くから競馬の世界には、「OP特別大将」「G2大将」なる言葉が存在する。それは、OP特別は勝てても重賞ではワンパンチが足りなかったり、また、G2はいくつも勝てるが、G1タイトルには縁遠い馬がいたからだ。それだけOP特別重賞の間には段差があり、また、G2G1の間にも大きな隔たりがあるということだろう。

では、その段差とは、いったいどういうものなのだろうか?

明確にそれを指し示すことは不可能だろうが、かつて、ある馬主の方からヒントとなるような面白い話を聞いたことがある。その方は、所有馬を初めてG1レースに出走させた時、パドックであることに気づいたというのだ。

G1レースになると、そのひとつ前のレースとの間隔が長く取られるケースが多い。例えば昨年の有馬記念15時25分発走だったが、そのひとつ前のレース(2011フェアウェルS)は14時35分の発走だった。実に50分もの間がある。

前週の朝日杯FSであっても、その発走時刻は15時25分で、ひとつ前のレース(仲冬S)は14時45分だったから、40分の間がある。間隔が開けばパドックを周回する時間も長くなり、精神的にもたない馬も出てくる。その馬主の方は、そう話していたのだ。

実際にその馬主の方の所有馬は、パドックを周回しているうちにだんだんとイレ込んでいき、レースでは実力通りの走りをできなかったと悔やんでいた。その馬主の方は、「G1を勝つには、まずはあの長いパドックを克服できる精神力が必要」と語っていた。

「OP特別大将」「G2大将」と呼ばれる馬のすべてが、重賞やG1のパドックを苦手にしているわけではないだろう。ただ、平常心というか、いつもと同じ気持ちで戦えるかどうかは、より上級のレースになればなるほど重要度が増すと思われる。速く走る能力だけではなく、その力をきちんと100%を出せるかどうかが、重賞G1では問われてくるのだろう。

『サラブレ』本誌の2月号(発売中)には、C・ウィリアムズ騎手I・メンディザバル騎手の対談が掲載されているが、ふたりはブエナビスタに騎乗してみたかった」と話していた。それは、どんな時でも力を発揮するブエナビスタの精神力に畏敬の念を抱いていたからだという。

その話は、成績だけでは表れないブエナビスタの素晴らしさを表現していると思うが、同時に、裏を返せば、トップホースであっても、それだけ強いメンタル面を持つ馬は少ないという証左でもあるだろう。馬はやっぱり難しいのだなあと思わせられる。

ルーラーシップは、その実力を見ても「G2大将」と呼ぶには相応しくない存在だと思うが、G1タイトルに手が届いていない現状を見れば、やはり何かが足りないのかもしれない。果たして、その何かとは何なのか。

名調教師の角居師が、ルーラーシップの今後にどのような鍛錬を施して、G1タイトルを手にさせるか。非常に楽しみだ。そして、実際に悲願のG1奪取に成功した暁には、その裏話を聞いてみたいと思う。