この父系で7歳での重賞初制覇にはただただ感服するばかり
文/編集部(W)、写真/森鷹史
「(重賞を)こんなに早く勝てるとは思っていませんでした。チャンスをくださった関係者の皆さんに感謝したいです」昨年、一昨年(18勝)の5倍近くになる
91勝を挙げ、全国リーディング
6位と大躍進した
川須騎手は、レース後のインタビューでそのように語っていた。12回目での挑戦で初の
重賞タイトルを手に入れたとなれば、
「こんなに早く」という表現も納得である。
川須騎手はこの
小倉大賞典で
エーシンジーラインと初コンビを組んだが、スタートから仕掛けてハナを奪った
積極策が功を奏したように思う。
道中で
オースミスパークに競られ、前後半4Fが47.4-47.5という平均ペースで息を入れづらい
厳しい展開。4角2~3番手につけていた馬が掲示板外に失速し、②~⑦着に差し馬がドッと押し寄せたことからも、そのことが窺い知れる。
それでも、
「後ろと離れていましたが、良いリズムで走れていたので、直線に向いても余力が残っていました」という
川須騎手の言葉通り、
主導権を握ったことによって、自分のリズムで走れたことが大きかったのではないだろうか。
若手らしい思い切りの良い騎乗に導かれ、
エーシンジーラインも初の
重賞タイトルを手に入れたわけだが、こちらは8回目の挑戦でのこと。ただ、07年8月の小倉デビューから4年半、キャリア40戦目、そして、
7歳でのタイトル奪取には頭が下がる。
エーシンジーラインは父ストームバード系で、同父系はこの
小倉大賞典以前だと、
中央重賞で
[20.30.14.329]という成績だった。そのうち、
サンライズバッカス(
07年フェブラリーS)、
ゴスホークケン(
07年朝日杯FS)、
エーシンフォワード(
10年マイルCS)、
エイシンアポロン(
11年マイルCS)がG1勝ちしている。
だが、その4勝はすべて5歳以下で挙げたもので、
6歳以上でのG1勝ちはまだない。
サンライズバッカス、
ゴスホークケン、
エーシンフォワードはそのG1勝利以降、中央では
未勝利のまま登録を抹消されている。
父ストームバード系は
6歳以上でG1勝ちがないどころか、前記した成績を
6歳以上に限定すると
[0.5.2.84]。それが、
エーシンジーラインが
小倉大賞典で勝利したことによって
[1.5.2.84]となり、父ストームバード系の歴史に
新たな記録が刻まれたのである。
しかも前記したように、
エーシンジーラインは今年で
7歳となり、デビューは2歳8月でキャリア40戦を誇る
古豪で、決してデビューが遅かったわけでも、
休養が多くて年齢のわりにキャリアが浅いというわけでもない。
初勝利に6戦を要し、
500万で8戦、
1000万で12戦、
準OPで4戦とキャリアを積み重ねながら着実にクラスを上がっていき、そして
OP10戦目、
7歳にして
重賞タイトルを手中にしたわけだから、
父ストームバード系の中では異彩を放っている存在だろう。
父ストームバード系にはメンタル面で難しいタイプが多い印象で、早い時期に活躍しながらも
不調に陥ると、なかなかそのトンネルから抜け出せないタイプもいたりするが、
エーシンジーラインは長く現役を続けている肉体面だけでなく、
メンタル面でもタフなタイプなのかもしれない。
エーシンジーラインは近親に種牡馬となった
チーフズクラウンがいて、日本で走っている馬では
リーチザクラウン、
シルクフェニックスといった重賞勝ち馬も同じ一族。半兄の
エーシンエフダンズも重賞で②着に好走した実績がある。
そういった血統背景を見ると、
エーシンジーラインは重賞勝ちしても特段驚くことはないのだが、父系面の重賞成績からは、
今回の勝利に対してただただ感服するばかり。異色の父ストームバード系として、今後も奮闘していってほしいものだ。
なお、1番人気の
コスモファントムに騎乗していた
蛯名騎手はJRA全10場重賞制覇の記録がかかっていたが、
トップハンデ(57.5kg)の影響か、ひと押しが利かず③着に敗れ、記録達成は次の機会以降に持ち越しとなった。
コスモファントム&
蛯名騎手は好位でスムーズに流れに乗り、1番人気らしい堂々としたレース運び、そして、ベテラン騎手らしい卒のない手綱捌きだったと思う。ただ今回に限っては、
重賞初制覇に対して、「こんなに早く」という人と、「こんなに遅く」という馬の対比が非常に印象的だった。