流れを問わない強さを見せた
文/編集部(M)、写真/川井博
『メインレースの考え方』の最後の部分には、
そのレースのちょっとした傾向や
その条件の近年の成績を追記するようにしている。読み返していただければ分かる通り、今回の
中山記念については
枠順の傾向を記した。
ただ、実はもうひとつ、
書こうかどうしようか迷ったデータがあった。それは
近年のG1&G2戦の傾向だった。結局、これは書かなかったのだが、どんなデータだったか、ここでお知らせしておこう。
昨年以降、今回の
中山記念の前までで、
芝のG1&G2戦は57回行われていて、そのうち
13頭立て以下のレースは15回あった。この15レースにおいて、
1番人気はどんな成績を収めていたと思いますか?
少頭数競馬は堅い決着が多いから、
1番人気の成績が良いことは容易に想像が付くだろう。その15レースでの
1番人気は、
[12.2.1.0]という成績だった。勝率は8割もあり、馬券圏外になった馬はなんと0頭! だから、
トゥザグローリーが日曜日も
1番人気のままなら、
けっこう堅い決着になるんじゃないか?と書こうとしたのだ。
ところが、結果はご覧の通り。
ムシの知らせがありまして……書かなくて良かったです(笑)。
このデータを知っていた自分は、個人的に
トゥザグローリーから堅い馬券を買おうかと思っていた。でも、レース直前になって、
自分だけが知ってるようなデータで儲けようというのは人が悪い、と思い直し、結局、馬券は買わずに観戦していました。いやあ、こっちも思い止まって良かったです(笑)。
トゥザグローリーについては、前走の
日経新春杯のこのコーナーで記した通り、
右回りで真ん中から内目の枠がベストなのだとは思う。過去の7勝はすべて右回りの馬番8番以内で挙げていて、右回りでも9番より外枠だと[0.0.1.5]という成績が残されている。道中で行きたがる面が見られるから、
前に壁を作れる形が合うのだろう。
ただ、今回は
外枠(8枠11番)だったとはいえ、ペースが
1000m通過58秒7と速く、それほど折り合いを欠いているようには見えなかった。あれくらいなら、直線でもっと伸びてきていいはずだ。ペースだけでははかれない、
気持ちの面の影響もあったのではないだろうか。
メンタル面の影響だとすると、この後の
ドバイ遠征を危惧する向きもありそうだが、個人的にはそこはあまり気にしていない。
トゥザグローリー自身、古馬になってからは掲示板内かふた桁着順という成績だし、
キングカメハメハ産駒は、不可解な大敗の後で何事もなかったかのように一変する馬が多く見られるからだ。
トゥザグローリーに関しては、一にも二にも
馬群の中で折り合える枠順で戦わせてあげたいものだ。ドバイでは、果たしてどんな枠順になるだろうか…。
馬券的には、今回の
中山記念は、1番人気の
トゥザグローリーでも2番人気の
レッドデイヴィスでもなく、
フェデラリストから入るのが
正解だったわけだが、これは
『中山記念』の
中山記念らしさが出たと言えるだろう。
中山実績、そして
内枠というのがキーワードだったのだ。
『メインレースの考え方』では、過去の10年中8年で
馬番1~3番のいずれかが連対圏に入っている、と記したが、連対圏どころか、今年は
馬番1~3番の馬が馬券圏内を独占した。開幕週の中山芝で、1コーナーまでの距離が短い1800mコースらしい結果だった。
ただ、個人的には
「それでも…」と思う面もある。優勝した
フェデラリストは、
蛯名騎手でなければ②着止まりというケースもあったのではないか、と思ったのだ。そう思わせられるほどに、
蛯名騎手の
コース取りは見事だった。
フェデラリストは縦長となった隊列の
内に控え、勝負所でも外に出さず、直線でも
内を突いて伸びてきていた。これでもかというくらいに
内にこだわり、言ってみれば1800mをロスなく走って差し切った。
勝負所では
フェデラリストの外に馬が密集していたから、外に出そうと思っても叶わなかったのではないか?と見る人もいるだろうが、11頭立てという頭数なら、勝負所ではなくても
外に持ち出すチャンスはあったように思う。しかし、そんな素振りは見られなかった。
内の狭い所であっても
突くだけの脚がある、との確信を道中で得ていたのかもしれない。
フェデラリストは、これまでの芝の4勝がいずれも
スローペースで、
シルポートが作り出すペースがどうなるかによって、成績が左右されるのではないかと思っていた。予想以上にペースが速くなったので、レース中には、
これはたいへんなことになったと思ったものだ。ところが、ペースが締まったことで、むしろ
秘めたる爆発力を発揮してみせた。
母の
ダンスパートナーは
ダンスインザダークの全姉で、
サンデーサイレンス×
ニジンスキー×
リボー系という配合になる。この血統だけを見れば、ハイペースでの消耗戦になっても強さを見せそうだったのだが、
フェデラリストにはいかんせんそんなレースの経験がなかった。しかし、今回のレースで、
血統の字面通りの底力を内包していることも証明した。
今回の
ハイペース、そして以前の
スローペースでも切れる脚を使っていて、
その強さは流れを問わないと言えるだろう。いったいどこに弱点があるのか? いまのところ、ちょっと見あたらない域にあると思う。
レース後のインタビューでは、
蛯名騎手は
「強い関東馬が出現してきたことで、これからも関西馬といい競馬をしていきたい」という趣旨の話をしていた。
関東の競馬を背負う男のその強い眼差しには、ちょっと身震いするような感覚を覚えた。これからも
熱い競馬を見せてもらいたいものだ。