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チューリップ賞からきっちりと巻き返し、今年も桜花賞馬になった
文/浅田知広、写真/稲葉訓也


当方が競馬を見始めたころ、牝馬路線ではクイーンC「実力馬が思わぬ敗戦を喫するレース」、いわゆる「魔のレース」のような言われ方をされていた。その最たる理由はメジロラモーヌの4着敗退(86年)なのだろうが、その前にも、いまはエアグルーヴの母としてお馴染みのダイナカール(83年オークス馬)が初めて敗戦を喫したり(83年⑤着)、朝日杯も含め3連勝中だったテンモン(81年オークス馬)が敗れたりしていた(81年③着)。

しかし、近年はクイーンCよりもチューリップ賞。三冠牝馬・アパパネ(10年②着)やスティルインラブ(03年②着)を筆頭として、ファレノプシス(98年④着)にメジロドーベル(97年③着)といった後の活躍馬が、チューリップ賞では思わぬ敗戦を喫している。

最重要前哨戦とされるわりには……と言うべきか、だからこそ有力馬がこぞって出走し、数が増えれば負ける例だって当然増えてくると言うべきか。いずれにしても「あれっ?」という結果のあるレースだ。

……などと考えていた桜花賞のレース前。今年のチューリップ賞は2歳女王・ジョワドヴィーヴル思わぬ③着敗退。もしこの馬が桜花賞を勝てば、やっぱりチューリップ賞はそんなこともあるレースなんだ、という話になるんだろうと思っていた。

しかしもう1頭、単勝オッズこそ1.3倍のジョワドヴィーヴルに離されていたものの、チューリップ賞「あれっ?」という走りをしてしまった人気馬がいた。当時単勝4.4倍で、ジョワドヴィーヴルと一騎打ちと思われていたジェンティルドンナである。

チューリップ賞ジェンティルドンナは、③着ジョワドヴィーヴルから半馬身差の④着。ただ、先着したジョワドヴィーヴルには休み明けだの、直線で内に入っただのという敗因が語られていたが、「それらしい」とはいえ「これだ!」というほどすっきりした理由は見当たらなかった。

対してジェンティルドンナ「熱発明け」、これ以上なくすっきりした敗因である。それで「すっきりしない敗因」ジョワドヴィーヴルの直後から伸びて半馬身なら、いかにも巻き返しがありそうなのはジェンティルドンナの方だったのかもしれない。

チューリップ賞でも、内で進路を切り替えつつ、直線終盤はまずまずの伸びを見せていたジェンティルドンナだったが、当時の最内枠から、今回は中ほどの5枠10番。3~4コーナーをさしたる距離損なく通過しながら、直線入り口では前をふさぐ馬が皆無という絶好の展開にも持ち込めた。

こうなれば、シンザン記念で牡馬を一蹴した実力、そして前走とは違い、その実力をいかんなく発揮できる臨戦過程。あとはゴールを目指して一直線……というほどまっすぐ伸びたわけではなく、内にモタれ気味になるのを岩田騎手が矯正しつつの叱咤激励だったものの、今度は実力通りに、そして「最重要前哨戦」ではなく「本番」のタイトルをきっちりともぎ取ってみせた

こうしてジェンティルドンナがタイトルをもぎ取った直後、この原稿を書こうとフォルダを開くと「12シンザン記念.txt」(シンザン記念速攻レースインプレ原稿)。何を書いてたかなあ、と思って見れば「過去10年で③着以内に入った牝馬2頭・ダイワスカーレットとマルセリーナがともに桜花賞馬になっている」

自分の書いたことくらい覚えておけという話で反省しきりなのだか、ともかく今年も桜花賞馬になりました、というシンザン記念「③着以内」どころか勝ち馬のジェンティルドンナである。

魔のレース・チューリップ賞はさておき、シンザン記念の着順は二冠を獲ったダイワスカーレット(シンザン記念チューリップ賞ともに②着)を上回っているこの馬。果たして、チューリップ賞で敗戦を喫した先輩・アパパネスティルインラブに続くことになるのかどうか。そんな期待を抱かせるに十分の「一冠目」だったのは確かだ。