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スノーフェアリーのイメージをダブらせて、内田騎手はアクセルを踏み込んだ
文/石田敏徳、写真/稲葉訓也


第1Rのパドックがそろそろ始まろうかという時間帯、中山の芝コースを歩く福永祐一騎手の姿を見かけた。

「レースの前にコースを歩いて、馬場の感触を自分の足で確かめた」という類のエピソードは過去に何回も聞いたことがあるけれど、現実にその場面を目の当たりにしたのは初めてのこと。

物珍しさもあってしばらく、スタンドから遠目に眺めていたら、は時折、立ち止まっては地面を踏みつけるような仕草を何度か繰り返し、入念に馬場の状態を確かめていた。

馬場のコンディションが気になるのは馬券を買う側だって同じ。終日、が降り続く中で行われた土曜日の芝のレースでは明らかな「外差し」の状態だったけど、夜半にがあがって爽やかな好天に恵まれたこの日は前日の傾向がどのように変化していくのか──? それは皐月賞の行方を占う重要なポイントのひとつだと思えた。

というわけで、今日は芝のレースが終わるたびに、場内に設置されているパトロールビデオ放映モニターの前に足を運び、上位に食い込んだ馬たちのコース取りを確かめていたのだが、前日の傾向はまったく変わっていなかった。

鹿野山特別(中山第9R)ポールアックスのように、“内ラチから離して逃げ、直線では馬場の中央付近へ持ち出す”というハンドリングでも、外を回ってきた馬の末脚に飲み込まれてしまったほどで、外差しの傾向は前日よりもむしろ強まっているように映った。

ところがところが。内田博幸騎手にエスコートされたゴールドシップは、ほとんど立ち入り禁止ゾーンのように思えていた“3、4コーナーから直線にかけての馬場の内め”を突いて、一冠目のタイトルをつかみとったのである。

出遅れ癖を抱えていた2歳時は札幌2歳SラジオNIKKEI杯2歳Sと惜敗(ともに②着)を重ねたゴールドシップだが、共同通信杯と同様、この日は五分のスタート。

しかし「外枠(7枠14番)だったので、あまり仕掛けていくと中途半端に外を回らされてしまう」と判断した内田騎手は後方待機策を選択、「ギリギリ、馬場のいいところ」を選んで走らせた。ポジショニングにはこだわらず、距離のロスを抑えることを優先させてレースを運んだわけだ。

この結果、道中の位置取りは後方2番手。先手を主張したメイショウカドマツと途中からこれをかわして主導権を握ったゼロス、雁行する形でレースを先導した2頭からはずいぶん離される形になってしまったが、「人気を集めている馬(ワールドエース、グランデッツァ)も後ろにいたし、ペースが速かったからいくらなんでも(前は)止まるだろうと思った」というに焦りはなかった。

そして3コーナーの手前、レースのポイントとなった場面が訪れる。一様に外へ持ち出しにかかった各馬に対し、内田騎手がハンドルを切ったのは“立ち入り禁止ゾーン”と思えた馬場の内め。このときの心境をは次のように振り返る。

「あまりにもみんなが外へ出してくるんで、一緒に外へ出したらこれは相当、不利になるなと。なので試しに(馬場の中央部分より)ちょっと内側を走らせてみたら、いい感じで走っていたから、そのまま内を突くことにしました」

その瞬間、彼の脳裏に浮かんだのは“スノーフェアリー”だったという。勝負どころで馬群のインに潜り込んでスルスルとポジションを上げた英国の牝馬が、直線では鮮やかな鬼脚を発揮した昨年のエリザベス女王杯。あのイメージをダブらせて、はアクセルを踏み込む。

そしてゴールドシップが繰り出したのはスノーフェアリー級──とはいわないまでも、素晴らしく力強い末脚だったというわけだ。いくら「道悪は苦にしない」といっても、立ち入り禁止ゾーンにズカズカと踏み込んで加速し、そのまま後続を寄せ付けずにゴールを駆け抜けたのは非凡な脚力の成せる業。二冠目のダービーに向けても視界は良好といえるだろう。

そんなゴールドシップに対して、ほぼ同じ位置を進んでいたワールドエース福永騎手「外が伸びていた馬場の傾向も踏まえて」外を選択。結果論に過ぎないけれど、この判断が明暗の分かれ目になってしまった。

とはいえ、1周目のスタンド前で前のマイネルロブストと接触して大きく躓いたアクシデントを乗り越えての②着好走は高く評価できる。折り合いの課題を完全にはクリアできなかったディープブリランテ(③着)以下のライバルには一歩、水を開けた印象で、今年のダービーでは皐月賞①&②着馬の“二強対決”がレースの焦点となりそうだ。