来年以降も、1600mで強い馬が勝つレースであり続けてほしい
文/安福良直、写真/川井博
レース前は
嵐の予感というか、馬場入場時には大雨が降って、今年も
大荒れなのかと思わせた
NHKマイルC。
実際、直線では落馬事故も起きてしまったが、勝った
カレンブラックヒルは波乱とは無縁の力強い走り。周りがいろいろ騒がしかろうが、己を信じて前へ前へと進んだ馬が勝つのだ、という信念を感じさせるレース。だから
「強かった」と素直に言える。
ただ、パドックでの
カレンブラックヒルはやや落ち着きがない様子で、馬場入場でも行進に加わらずに最初に出てきたほど。このあたりはキャリア3戦、初めての大舞台で大丈夫かな、という雰囲気もあった。
それでも大雨が上がってスタートの頃には気分が落ち着いたようだし、何といっても
秋山騎手に迷いがなかったのが良かった。最初から
「逃げる形になってもかまわない」とばかりに、好スタートからスッと先頭に出ていった。
今回のメンバーで、逃げてレースをしたことがある馬はほとんどおらず、2番手につけた馬たちも競りかけるどころか、折り合い重視で手綱をすぐに抑えていたほど。これで楽になった。
カレンブラックヒルはキャリアがわずか3戦だったが、すべて逃げか先行での競馬。もし出遅れて後方からの競馬になっていたら
キャリア不足が心配されるところだったが、いつもの競馬ができるのならば、まったく問題なかったわけだ。
それにしても、展開が味方した面もあるとはいえ、直線での走りは力強かった。東京の坂で後続に
3馬身半の差をつけるのは簡単ではない。
NHKマイルCでは2004年の
キングカメハメハが②着に
5馬身差をつけて勝っているが、
それに次ぐ圧勝劇。
そして、無敗で
NHKマイルCを勝ったのは、
1998年のエルコンドルパサー以来2頭目。両馬のその後の活躍ぶりを考えると、
カレンブラックヒルにも大きな期待をかけていいだろう。父ダイワメジャーをしのぐマイル王になる可能性もあるのでは。
そして、馬も強かったが、
秋山騎手も見事だった。G1に50回以上挑戦してまだ勝てていなかったのがウソのような、迷いのない手綱さばき。デビュー戦からずっと乗り続けていて、馬との
信頼関係をしっかり築くことができたからこその勝利だろう。乗り替わりの多いこのご時世だが、このコンビはずっと続いていってほしいですね。
カレンブラックヒルの迷いのない強さとは対照的に、人気を分けあった
マウントシャスタにとっては残念なレースとなってしまった。道中の位置取りは悪くなかったと思ったが、初めての1600m戦だったからか動きたいところでスムーズに動けず、直線で強引に内に入って
シゲルスダチの落馬を引き起こしてしまった。
カレンブラックヒルと同じキャリア3戦だったが、
カレンがずっと
秋山騎手とのコンビで1600mを走っていたのに対し、こちらは距離も鞍上とも初めての組み合わせ。1600mで勝つための準備という点では、
カレンの方が
マウントよりも数段上を行っていたとしか言うしかない。
カレンブラックヒルの強さばかりが目立ったレースだが、②着の
アルフレードも
復活を感じさせる走りはできた。1600mならこの馬もここまで
3戦3勝だったから、この距離でこそ、という馬なのだろう。
ということで今回の
NHKマイルCは、
1600mで3戦3勝だった2頭のワンツー。マイルのG1なんだから当たり前じゃないかと思われそうだが、いままでの
NHKマイルCはなかなかこうは行かなかった。
創設当初は
クラシックに出られない外国産馬のためのレースだったのが、
ダービーへのステップに変わったり、そうでなければ
大波乱。
1600mで強い馬が勝つ、というレースではなかったように思う。
なんだか迷走するG1という感じだったが、昨年の
グランプリボスに続いて、今年も1600mで強い馬が勝った。これがやはりG1の本来あるべき姿。
来年以降も、1600mで強い馬が勝つレースであり続けてほしいですね。ときどき荒れるのはかまわないけど。