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馬の能力と鞍上の頭脳プレーがかみ合っての5馬身差圧勝だった
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博


2分23秒6。オークス直前のフリーウェイS(芝1400m)1分19秒6(レコード)で決着した時に、女王決定戦も速い時計で決まることを予感したが、ここまでのタイムとは思わなかった。

要因は3つ。速い馬場設定、マイネエポナが引っ張って気持ち良く流れたこと、そしてジェンティルドンナの絶対能力が飛び抜けて高かったことだ。5馬身差は、ここ32年のこのレースで最大着差だという(80年オークスケイキロクが5馬身差勝ち)。ジェンティルドンナ数十年に1頭の素材であることを素直に認めたい。

ラップを見直して、さらに驚いた。前半1000mが59秒1。その後、もっとも緩んだ7F目でも12秒4。そこからゴールまで12秒312秒212秒1と加速を続け、ラストも11秒8を2本並べてまとめた。オークスレコードをマークして、さらにラスト1Fで止まっていないのは驚異の一言だ。

06年カワカミプリンセスが優勝した一戦は前半1000m58秒1と、前半は今年以上の激流となったが、その後に13秒513秒2とスローダウンしている。最後までラップが遅くならなかったレースで、オークス史上に残る勝ちっぷり。感嘆するしかない。

優勝後の川田将雅騎手のインタビュー。「ミッドサマーフェアとヴィルシーナをマーク。それだけを考えていた」と戦前に描いていた作戦を明かした。その通りの騎乗だった。

直線、残り300mでミッドサマーフェアを右真横からかわした。抜かれた瞬間、蛯名正義騎手の表情が「やられた」という雰囲気に、ゆがんだ。ミッドサマーフェアもおそらく同じ気持ちだっただろう。1番人気馬の闘志を、この一瞬で根こそぎ奪った。

そして残り200m。ヴィルシーナが馬体を併せようとしたところを、川田騎手は左ムチを使って少し外に持ち出し、馬体を接近させなかった。桜花賞では驚異の二枚腰でアイムユアーズを差し返した同馬。馬体を併せたら勝負根性を発揮される可能性がある。馬体を離すことで、ヴィルシーナの根性を封じた。1、2番人気馬を自らねじ伏せ、ゴール前は無人の芝を突き抜け独走。馬の能力鞍上の頭脳プレーがかみ合っての5馬身差だった。

お立ち台に上がった川田騎手の表情を見て、オッと思った。気持ち良く刈り込まれた短髪。表情も以前より引き締まったように見えた。

「僕へと乗り替わったことで桜花賞馬が3番人気になった。信頼されていない証かなと思う。桜花賞馬でのオークス挑戦。もっと緊張するかと思ったが意外に楽しめた」

はきはきとした口調で思いを言葉にした。「信頼されていない証」というのも、悔しさや嫌みを含んでいるのではなく、事実を淡々と受け入れているように見えた。周囲の事象に過剰に反応しなくなっている。精神的に非常にたくましくなったように思えた。

昨年春に結婚した川田騎手。守るべき家族ができたことが彼を急速に大人にさせたのかもしれない。騎乗停止中岩田騎手に替わって代打に指名された時は「嘘かと思った」と言うが、周囲は代打を託すだけの男へと成長したことを十分に分かっていたのだろう。

秋華賞では3冠が懸かるが、普通に走ればまず獲れるはず。まずは無事に夏を過ごしてほしいと願う。

②着ヴィルシーナも全力は尽くした。パドックでは毛ヅヤが素晴らしく、いかにも柔らかそうな馬体は目を引いた。すでに述べたが、ラストでジェンティルドンナと馬体を併せていれば、5馬身まで差は開かなかっただろう。今後もたぐいまれな勝負根性を活かせれば、チャンスは巡ってくるはずだ。

アイスフォーリスは直線でうまくインをさばいたとはいえ、最後まで上々の踏ん張り。アイムユアーズも決して向く距離ではなかったはずだが辛抱しきった。

感心したのはサンキューアスクを⑤着に導いた北村宏司騎手。スタート後、迷わずインへと馬を導き、馬場のいい経済コースを走らせた。17番人気ということからいえば、最高の騎乗だったのではないだろうか。ゴール前でいい突っ込みを見せた⑥着ダイワズームも先が楽しみになった。

ジェンティルドンナの強さに加え、個性のある各馬の健闘も楽しめた、いいオークスだった。