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走る気を尊重した岩田騎手の手綱捌きがハナ差につながった気がした
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/稲葉訓也


ディープインパクト時代の到来を具現化する第79回日本ダービーとなった。

昨年11月の東京スポーツ杯2歳Sを圧勝した時点で「来年のダービーはこの馬」と多くのファンが信じていたディープブリランテだったが、その後は折り合い難を露呈したこともあって共同通信杯②着、スプリングS②着、そして皐月賞でも③着と、2歳時に見せた怪物ぶりがすっかり影を潜めていた。

ディープインパクト初年度産駒には重賞連勝馬が1頭もおらず、また著しい成長力を見せた馬も見当たらなかったことから、「ディープインパクト産駒は一度仕上げてしまうと成長が止まり、調子のピークも短いのではないか」という不安点が、ファンばかりでなく馬産地でも深刻に論じられ始めていた。ディープブリランテのこの3戦も、そのディープインパクト産駒の悪い特徴が出てしまったのではないかとの見方が強かった。

もちろんそういった傾向はあったのかもしれないが、関係者のさまざまな工夫で克服が見えてきた。脚元が丈夫なため、初年度産駒の大半は2歳の早い時期から仕上がっていた印象を受けた。初年度産駒はJRA2歳戦41勝と、父の初年度(30勝)を大きく上回る成績を残したものの、その後は尻すぼみになったことで、2年目産駒は育成牧場で敢えて仕上げを遅らせる手法も取られた。

ディープブリランテノーザンファームでじっくりじっくりと乗り込まれていた。厩舎でも余裕を持ったローテーションを組むようにし、ディープブリランテ東京スポーツ杯2歳S後、共同通信杯まで3ヶ月間の休養を取った。

そして、最大の功労者はやはり岩田康誠騎手だったと思う。引っ掛かり癖を見せてきたディープブリランテに対して、無理に抑えるのではなく、馬との意思疎通を高めることで制御する術を探り続けた。

調教で騎乗するだけでなく、頻繁に厩舎に通い、自らブラッシングまでして友達になろうとし、NHKマイルCの進路妨害で騎乗停止となってしまった期間は、競馬開催日もディープブリランテの背にまたがったとのこと。

そして、ダービーでの騎乗はまさに神業だった。通常、引っ掛かる馬に対しては手綱を短く持って制御しやすいようにするものだが、岩田騎手はまったく逆の手に出た。「ディープインパクト産駒の最大の特徴は野性味。無理に折り合いを付けさせようと強く抑えたり、短い手綱で激しく追ったら持ち味を失って走る気を削いでしまう」。道中も直線も長手綱のまま、馬の走る気を尊重した騎乗を見せたのだ。

1000m59秒1のハイペースだったこともあり、道中はそれほど引っ掛かり癖を見せなかったが、このペースを4番手で追走したことでゴール前は明らかにバテてフラフラしていた。

だが、岩田騎手はやはり長手綱のまま。馬は自分で頑張ろうとしていたが、それでも左右にヨレそうになる。それを岩田騎手は手綱ではなく、自分のバランスを傾けることでほぼまっすぐ走らせたのだ。

直線の正面からの映像を見ると、まるでロデオのように、岩田騎手の体が左右に大きく傾いていた。ディープブリランテの走る気を尊重したことが、フェノーメノとのハナ差につながった気がした

ディープインパクト産駒は桜花賞オークスジェンティルドンナヴィルシーナが①&②着独占したのに続いて、皐月賞は②&③着、そしてダービーには7頭が出走して①&③&④着と上位を占めた。まるでダンスパートナージェニュインタヤスツヨシらサンデーサイレンスの初年度産駒が席巻した驚異の1995年クラシックを彷彿とさせる。

昨年は3冠馬オルフェーヴルを送り出し、今年も皐月賞ゴールドシップが勝ち、ダービーでも②&⑤着を占めたステイゴールドもすごいが、「サンデーサイレンスの後継はもちろんオレ!」と主張しているかのような活躍ぶりだ。

まだ2世代の産駒だけでリーディングサイアー争いは王者キングカメハメハを逆転してすでに首位に立っていたが、このダービーの成績で首位独走の様相になってきた。

今後はノーザンファーム矢作師岩田騎手以外でもディープインパクト産駒の特徴をしっかり捉えた育成・調教が進んでいくはずで、日本ダービー制覇をきっかけにディープインパクトがどこまで偉大な父に迫れるかが、今後の大きな注目点となってきそうだ。