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展開が勝因のひとつだろうが、骨折を乗り越えてきた自身の力を忘れてはならない
文/浅田知広、写真/川井博


当方、ある原稿で「おそらく1番人気はないと思われる」などと書いてしまったのが、ふたを開けてみれば1番人気だったサダムパテック。これは大変お恥ずかしいかぎり、申し訳ないかぎりなのだが、今回サラブレの担当氏からいただいた週半ばのメールには「どうも香港馬2頭が人気を集めそうな雰囲気」とも。

予想をするのもたいへん難しかった今年の安田記念だが、それ以前に、まずどの馬が1番人気でどの馬が下位人気になるのかすら、非常に読みづらいレースだった。

その1番人気に推されたサダムパテックの単勝オッズは6.6倍。単勝6倍以上の1番人気なんてロングシンホニー(89年ダービー、6.0倍)くらいしか記憶にないぞ、と思って調べると、確かにG1ではそれ以来。また、G1にかぎらず中央競馬全レースで、そのロングシンホニー以降、1番人気が6倍以上だったのはたったの20レースである。しかも6.6倍というと09年ダービー卿CTタケミカヅチ6.7倍に次ぐ3位であった(1位は平場戦の6.8倍)。

そもそも、京王杯SCと並ぶ前哨戦であるマイラーズCの1番人気・リアルインパクト6.0倍。その後アパパネヴィクトリアMを勝てず、香港馬が日本勢を上回る人気にもならないとなれば、G1史上に残るような大混戦にもなろうというものだ。

しかしそんな中、当方が1番人気を予想していたのが、0.1倍の僅差で2番人気だったストロングリターンだった。もっとも、1番人気を予想しただけのことで、予想は△の評価。これほどの混戦では1番人気なんてそうは来ないもので、前述の単勝6.0倍以上の1番人気20頭は[1.1.2.16]。また安田記念自体、過去10年の1番人気が[1.0.1.8]でもあった。

もちろん、こんな混戦ではたとえストロングリターンが逆転して1番人気に推されたとしても、マークする、されるといった展開の違いが生じる可能性は薄かっただろう。

それ以上に、このストロングリターンが昨年②着の雪辱を果たした大きな要因のひとつとして展開が挙げられる。

今年も昨年に続いてシルポートの逃げは予想されたもの。また、雨の予報もありながら結局良馬場でのレースとなり、前半3ハロン(12秒2-10秒7-10秒9)は昨年より最初の1ハロンが0秒1速かっただけ。しかし4ハロン目が昨年は11秒5、今年は11秒1とやや速く、レースを見ていてもここで前の馬群がやや伸びている。

こうなれば、わずかに差し届かなかった昨年より、ストロングリターンのチャンスは大きくなる。そして直線。昨年は1枠1番から内に入ったこともあり、直線で進路を切り替えざるを得ないロスもあってクビ差の②着だった。

しかし今年は4コーナーで、前が詰まらず、かといってさほど大きな距離損も喫しないという、絶妙のコースを取ることができた。あとはグランプリボスとの叩き合いを制するのみである。

もちろん「のみ」というほど簡単に勝てるほどG1は甘くない。少々ペースが速くなったとはいえ、勝ち時計は昨年より0秒7速い、1分31秒3のレコードタイムだ。

昨年はこの安田記念②着の実績がありながら、富士S後に剥離骨折マイルCSは不出走だった。もし、昨年もう少し運が向いていれば勝てたかもしれない安田記念。もし、昨年出走していれば勝てたかもしれないマイルCS。1年遅れ、あるいは半年遅れかもしれないが、その間に衰えることなく、さらにパワーアップしてきたストロングリターン自身の力を忘れてはならない

しかしこのレース、過去10年の日本馬で勝った牡馬は昨年のリアルインパクトを除くと6歳馬のみで、今年のチャンピオンも6歳を迎えたストロングリターンだった。

もしかしたら、この1年後にやってきた雪辱の機会だったからこそ、ついでに言えば、その機会で0.1倍差の2番人気に収まったことで、ストロングリターンがこの接戦を制することができた、のかもしれない?