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「為せば成る」で行き切ったトシキャンディの見事な逃走劇
文/編集部(T)、写真/森鷹史

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」とは、江戸時代の名君、上杉鷹山の言葉だ。

説明不要とは思うが、その意味を噛み砕いて言うと、「やればできる」「やってみなければ分からない」といったようなものになる。

正直、この言葉を聞くと浪人時代を思い出して、あまり気分が良くないのだが(笑)、似たような意味の言葉は、社会人となった今でも本当によく聞く。競馬に関する内容に置き換えると、「馬券を買わないと万馬券は当たらない」などだ(笑)。

今回のプロキオンSを制したのはトシキャンディ。スタートから激しく押して先頭に立ち、4コーナーで一旦後続に並びかけられたが、直線に入って逆に後続を突き放し、最後は一杯になりながら②着アドマイヤロイヤル、③着ファリダットなどの追撃を封じた。

今回、トシキャンディ単勝119.2倍の12番人気。中央のダート重賞で単勝万馬券となったのは、90年以降では96年マーチSアミサイクロン(単勝100.6倍の14番人気)、08年東海Sヤマトマリオン(単勝102.2倍の13番人気)のみ。90年以降のダート重賞では、単勝最高配当となった。

トシキャンディの戦績を振り返ると、3歳時は中央で4戦して勝ち星を挙げられず、地方の佐賀に移籍。そこで9戦7勝の成績を残して中央に復帰すると、以降はすべて芝ダート含めて1200m以下の距離を使われており、今回は中央復帰後で初のダ1400mだった。

トシキャンディは、OP緒戦となった前走の京葉Sでもハナに立っている。ここでは後続に入れ替わり立ち替わりプレッシャーをかけられる形となり、差し馬が掲示板を独占する流れとなったにもかかわらず⑥着に粘り込んだ。

2走前に準OPを勝っており、前走もそこまで悪い内容ではなかったにもかかわらず、今回はここまで人気を落とした。その理由を想像すると、相手関係もさることながら、距離に対する漠然とした不安もあったのではないだろうか。

そこで、冒頭の上杉鷹山の言葉に戻る。最近のトシキャンディはダ1400mという距離を走ったことがない(実際は佐賀時代に8戦6勝の成績を残している)だけで、走ってみればやれるはず……と考えた人が、このレースの馬券を取れたのだろう(もちろん、自分は取れてません)。

馬券を買う側から見ると、「やってみないと分からない」馬に思い切って資金を投入する勇気が、穴馬券を取るためには重要ということか。「買えば当たる 買わねば当たらぬ」だ(笑)。

では、今回トシキャンディはなぜ逃げ切れたのだろうか。その要素として今年と昨年のプロキオンSのレースラップを比較すると、面白いことが分かる。

今年
12.0-10.7-11.3-11.6-11.5-11.9-13.6

昨年
11.9-10.8-11.2-11.7-11.9-12.0-12.6

昨年は京都ダ1400m、今年は中京ダ1400mとコースは違うし、同じ良馬場でも今年は昼過ぎまで稍重発表で、コースコンディションも違うが、ラップを比較するとほとんど同じで、前半3ハロンはともに45秒6で入っている。

これを見る限り、決してペースは遅くないが、ひとつだけ大きく違うのは最後の1ハロン。昨年が12秒6なのに対し、今年は13秒6かかっている。さすがにトシキャンディも、最後は一杯になっていたようだ。

これだけ最後の1ハロンのタイムが違った理由は、昨年は差し馬、今年は逃げ馬が勝ったこともあるが、中京には直線残り200m手前に坂がある分もありそう。これが、昨年は差し切ったシルクフォーチュンが、今年は届かず⑤着に敗れた要因のひとつなのだろう。

東京では、坂を上がった後に差し切ることはなかなか難しいとされている。東京に似たコースと言われている中京が、同じような傾向を示しても不思議はない。

あるいは、トシキャンディの鞍上を務めた酒井騎手は“坂を上がるまである程度差をつけて先頭でいれば、十分粘り込める”と考えていたのかもしれない。

ちなみに、この日までに中京ダ1400mで開催された20レースでは、4角5番手以内にいた馬が17レースで勝利している。

これだけ前に行く馬が好成績を上げているところをみると、トシキャンディのような逃げ、先行馬がこのコースで穴をあけるケースは、今後も繰り返されるだろう。

このコースでは、距離不安のある先行馬を思い切って買えるかどうかが、穴馬券的中のカギを握ることになるのかもしれない。