この牝系の馬がついに重賞で全馬を捕え切ってみせた
文/編集部(M)、写真/森鷹史
今年の
新潟2歳Sの前に耳にした言葉ベストワンは、
「難しい」だろう。会う人会う人が口々に
「いやあ、これは難しい」と言っていた。
いや、競馬のレースに簡単なものなんて少ないわけだけど、今年の
新潟2歳Sは、
通常の難しさに輪をかけて難易度が高い印象だった。
18頭中14頭が前走①着だったが、0秒4差以上の差を付けて勝ってきた馬がいなかったし、しかも、前走が新潟芝外1600mだった馬は3頭だけで、新潟が未経験だった馬も8頭を数えた。
抜けた存在が見当たらなかったし、前走だけでは何が
得意条件なのか、判別しにくかったわけだ。
2歳の新馬戦は
幼稚園の運動会に例えられることがあるから、今回のメンバーのような2歳重賞は、さしずめ
小学校低学年の異種格闘技戦といった感じだろう。そりゃあ、何が勝つのか、当てるのは至難の業ですわ。
それでも、優勝した
ザラストロは、
「メインレースの考え方」で○(対抗)の評価で、③着となった
サウンドリアーナが◎(本命)だった。この2頭は前走が1400~1600mで、速い上がりを使って差し切っていたから高評価を与えたわけで、その点は間違っていなかったと思われる。
ただ、②着に食い込んだ
ノウレッジに関しては、前走が
新潟ダート1200m戦だったこともあり、まったくのノーマークだった。確かに前走のレースぶりは圧巻だったが、初芝のマイル戦でどれだけの脚を使えるか、図りかねる部分があった。
ノウレッジがアタマ差の②着に好走したことは、小学校の
国語のテストで唯一の帰国子女だった子(
ノウレッジは唯一の持ち込み馬だった)が95点を取ったような衝撃でした。見くびってすみませんでした…。
来年への教訓としては、やはり
前走で1400~1600mを走り、切れる脚を使っていた馬を主軸にすべきだろう。それが基本だと思うが、それだけでは足りない部分もあるようだから、可能なら、
データを覆せるような能力の一端を見せていた馬を追加する、といったところか。まあ、今度は、その能力を見極める
眼力を問われるわけですが…。
今回は、前走で0秒4以上の差を付けて勝った馬がいないメンバー構成だったと前述したが、
0秒3差で勝利した馬なら1頭だけいて、それが
ザラストロだった。
前走以外も含めれば、0秒3差以上で勝利した馬が
ザラストロ以外に1頭いたのだが、それは道悪馬場(稍重)で0秒6差を付けた
コスモリープリングだった。つまり、
良馬場の芝で0秒3差以上で勝っていたのはザラストロだけだった。いまとなってみれば、それはそれで素直に評価すべきだったと思われる。
ザラストロは、母が
セクシーココナッツで、その母が
ココパシオン。近年の競馬ファンにとっては、馴染みのある牝系と言えるだろう。
この牝系で代表的な存在は
ココナッツパンチ(父マンハッタンカフェ、母ココパシオン)で、同馬は新馬勝ちの後に挑戦した
弥生賞で
アドマイヤオーラのクビ差②着となり、同年春の
目黒記念では3歳の身で
ポップロックにクビ差まで迫ってみせた(②着)。
ココナッツパンチのように、この牝系の馬はとにかく
最後に切れる脚を使うタイプが多く、
ラルティスタ(父マイネルラヴ、母セクシーココナッツ)は新潟直1000mで切れる脚を使い、
プレノタート(父ジャングルポケット、母セクシーココナッツ)は芝1400mで差す競馬を見せている(朝日岳特別では不発だったが…)。
父がどんなタイプでも
切れる脚は一級品で、それは見ていて気持ちの良いくらいなのだが、実は重賞では突き抜けるまでに至ったことがなく、
壁になっていた。
ココナッツパンチは前述した2重賞での
②着が最高だったし、
アッパーイースト(父マンハッタンカフェ、母ココパシオン)は昨年の
弥生賞が0秒1差の
⑤着。
プレノタートは
フィリーズレビューで鋭い追い込みを見せたものの、0秒2差の
③着までだった。
今回の
ザラストロは直線で切れる脚を見せるだろうとの予測は立ったが、どこまで交わせるのか、不安に感じる部分もあった。その不安をよそに、他馬をまとめて交わし切ったのだから(しかも大外を回って)、
着差以上に価値ある勝利だったと言えるだろう。
新潟競馬場が左回りになってから
2歳重賞は11回が行われ、その勝ち馬が
朝日杯FSを制した例は
2回ある。04年の
マイネルレコルトと08年の
セイウンワンダーだ。
それ以前に暮れの2歳G1で好走した馬は99年の
ゲイリーファンキー(
阪神3歳牝馬S②着)がいて、同馬を含めると、新潟での2歳重賞の勝ち馬は、
4回周期で暮れの2歳G1で連対馬を送り出していることになる。
08年の
セイウンワンダー以来、今年が
4回周期の年となるわけだが、果たして
ザラストロは
朝日杯FSでどんな走りを見せるだろうか。中山の最後の直線で、
大外を鋭い脚で飛んでくる姿が目に浮かぶ。