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走るたびに死角らしい死角がなくなっていく感じ
文/編集部(W)、写真/稲葉訓也


96年に秋華賞が創設されて以降、牝馬三冠馬となったのは03年スティルインラブ、10年アパパネ。この2頭はいずれもチューリップ賞で②着、オークス以来の出走となったローズSでは順に⑤着、④着と敗れていた。

しかも、ローズSでの馬体重を見ると、スティルインラブが22kg増(464kg)、アパパネが24kg増(494kg)。ひと夏を越した成長分を含みつつもいくらか余裕残しで、本番を見据えた仕上げだったように思う。牝馬三冠を達成した後にスティルインラブとアパパネのキャリアを振り返ると、「トライアルはあくまでトライアル」といった感じが伝わってくる。

一方のジェンティルドンナ桜花賞オークスを差し切りで勝利し、オークスは5馬身差の圧勝で、2分23秒6という破格のレースレコードのおまけつき。牡馬相手にシンザン記念で重賞勝ちも果たしている強い二冠馬だ。

ただ、熱発明けだったといえ、上記2頭の三冠馬と同じくチューリップ賞で④着と敗戦を喫している。とりこぼす可能性があるならこのローズSだろうと睨んでいて、馬体重が12kg増(472kg)と発表された時には「う~ん、これはいよいよ……」と、レース前はひとり勝手に不安が募っていた。

ところが、馬体重が発表されても単勝オッズはほとんど変わらない。前週に行われたセントウルSのカレンチャンは22kg増(504kg)が影響した感じで、前日最終オッズの2番人気から最終的には3番人気に落ちていたが、12kg増ならほぼ成長分で許容範囲と見なされたのか、二冠牝馬に対するファンの支持は揺るがなかった。

結果は圧倒的支持に応えての完勝劇。サンマルクイーンが逃げた流れは1000m通過61秒4のスローペースで、レース上がり33秒4という極限の瞬発力勝負になったが、直線の長いコースでのそれはディープインパクト産駒がもっとも得意とする条件である。

ジェンティルドンナ(1番人気①着)、ヴィルシーナ(2番人気②着)、ラスヴェンチュラス(3番人気③着)、キャトルフィーユ(5番人気④着)と4頭いたディープインパクト産駒は、いずれも33秒台の上がりを使って人気順通りに上位を占めた。

桜花賞オークスでは、ヴィルシーナジェンティルドンナよりも前で競馬をしていて、ここも同じ位置取りになると思っていたが、ジェンティルドンナ&岩田騎手ヴィルシーナよりも前の2番手という積極策に出る。

直線では「来るなら来い!」という感じで、直線でのヨーイドンの競馬を展開したが、一旦引き離してからはそのリードが詰まることなく、最後は余裕を感じさせつつ先頭でゴールを通過した。

岩田騎手はレース後のインタビューで、秋華賞は京都芝2000mの内回りコースで、後ろから行く馬は落とすケースもあるから、今日は意識して前で運んだといった感じで話していたが、本番を見据えた感じの仕上げ、レースぶりで完勝するのだから恐れ入る。

桜花賞オークスではメンバー中最速の上がりを使って差し切っていて、差し馬というイメージが頭の中で定着しつつあったが、思い返せばシンザン記念は好位抜け出しで勝っていた馬。折り合いが不安と囁かれたオークスで圧勝した馬。今回は休み明けでも完勝して、走るたびに死角らしい死角がなくなっていくように感じるのは自分だけか。

G1・7勝馬ウオッカ(07年③着)、G1・6勝馬ブエナビスタ(09年2位入線後③着降着)でも勝ち切れなかった秋華賞。小回りコースの京都芝2000mでフルゲートともなれば、阪神外回りの桜花賞や東京のオークスよりも紛れは生じやすいだろうが、ジェンティルドンナの底知れないポテンシャルを持ってすれば、決して高くないハードルのように思えてくる。

一方、ヴィルシーナは3戦連続でジェンティルドンナの②着となったが、小回りコースでは新馬戦(札幌芝1800m)エリカ賞(阪神芝2000m)を制して2戦2勝と負けなしで、小回りコースの実績ではこちらが上と言える。今回は18kg増(450kg)で、余裕残しの仕上げにも映ったし、ひと叩きされた効果とコース替わりで逆転と狙いたいところ。

桜花賞オークスでワンツーした馬が激突した秋華賞と言えば、09年のブエナビスタとレッドディザイア。この年はレッドディザイアが三冠最後で一矢を報いたが、果たしてヴィルシーナはどうなるだろうか。

三冠馬の父から牝馬三冠馬が誕生するのか、それともライバル勢がそれに待ったをかけるのか。9月中旬になってもまだまだ残暑が厳しいが、涼しい秋も牝馬三冠ロードの秋(10月14日、秋華賞)も待ち遠しくなってきた。