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この勝利で、次のG1制覇も見えてくる大きなものとなった!?
文/浅田知広、写真/稲葉訓也


これだけ風が強いと、外国勢の「昔ながら」という雰囲気も漂う緩めの勝負服は空気抵抗的に不利なんじゃないか、などと思えた今年のスプリンターズS。その風の原因、台風の接近も危惧されたが、中山は幸いにして風だけ、雨は降らず絶好の馬場状態のままレースが行われた。

そんな馬場で見事レコード勝ちを収めたのは2番人気のロードカナロアだった。昨年は4月の500万条件から連戦連勝を続け、秋には京阪杯で重賞初制覇。さらに、今年初戦のシルクロードSも制して5連勝、そして芝1200mはデビュー戦も加えて6戦全勝。いかにもスプリントG1を勝ちそうな雰囲気を持って挑んだのが春の高松宮記念だった……のだが。

たとえば高松宮記念でいえば、トロットスターやショウナンカンプ。スプリンターズSならビリーヴやスリープレスナイト、そして昨年のカレンチャンなど。連勝で勢いづいて乗り込んできた馬がタイトルをモノにする確率は、マイル以上のG1に比べ高いように思える。しかし、その高松宮記念は悪くない走りこそ見せたものの、③着に終わって1200mで初めての敗戦を喫してしまった。

そして、このロードカナロアのように初挑戦のスプリントG1で②着、③着などという中途半端な結果に終わった馬は、どうも勝てないんじゃないかという印象もあったのが、このスプリンターズSだった。

過去10年で日本馬7勝。このうち、ビリーヴ、デュランダル、アストンマーチャン、スリープレスナイト、そしてカレンチャンは、このレースがスプリントG1初挑戦で初制覇。他には、高松宮記念を勝った後にスプリンターズS初出走だったローレルゲレイロの例もあるにはある。

しかし、イメージとしてはビービーガルダンやキンシャサノキセキで、結局G1を勝てないか、勝つにしても高松宮記念か。ロードカナロアは春の高松宮記念を負けてしまったことでそんな印象がつき、さらに函館スプリントSセントウルSと②着が続いたことが、このイメージを増幅させていた。

そんなことを考えていたのは当方だけかもしれないし、それをもとに予想をしたわけでもなかったのだが、ともあれ、見事なまでにそんなイメージを覆す快勝になった。

レースは僚馬で1番人気のカレンチャンを前に置き、道中は中団の追走。どこかで見たような、とまず思い当たったのは自転車ロードレース(ツール・ド・フランスなど)。そしてもうひとつ、最近のF1予選では、チームメイトをコース途中で風避けに利用してタイムを出す、というシーンも見られた。

実際のところ風避けになどなるのかどうか不明だが、パトロールビデオを見ると、スタートから300mほどでカレンチャンの後ろを取ると、4コーナーまでぴったりとこの位置をキープして直線は外へ。後は僚馬との叩き合いだ。

自転車ロードレースの集団スプリントでは、アシストが前でエースを従えたまま押し切ってしまったり(これは希にある)、後ろからエースを差してしまえば(これはまずない)珍場面、しかし、競馬でこの形になれば1番人気も2番人気も関係ナシ。力勝負、追い比べでエース格の先輩を見事に差し切ってみせたロードカナロア。なんとなく「世代交代」などという言葉も頭に浮かんでくる。

もちろん、カレンチャンもそう簡単には完全な世代交代を許さないかもしれない。しかしいずれにせよ、連勝が止まってから「②着③着の馬」になりかけていたロードカナロアにとって、この勝利は次のG1も見えてくる大きなものとなったのは確かだと思う。

前走で持ち時計を大幅に更新し、そして今回はレコード勝ち。今度は逆に、③、②着に敗れた高松宮記念函館スプリントSのように時計のかかるレースでも結果を出していけるのか。来年は「台風が来ても(中止にさえならなければ)大丈夫」というロードカナロアの姿が、またこの舞台で見られるのかもしれない。