3歳馬が旋風を巻き起こしている要因とは…?
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
日本でもアメリカでも、
野球はいまが大詰めとなっているが、今秋、アメリカのメジャーリーグでは、
あるチームの方針が大きな議論を呼んだ。いわゆる
「ストラスバーグ問題」だ。
ワシントン・ナショナルズに所属する
S・ストラスバーグ投手は、今年、8月末までに15勝を挙げ、
エースとして活躍していた。同チームはナショナルリーグ東地区の首位に立ち、リーグ制覇はもちろん、ワールドシリーズの優勝も狙えるほどの強さを見せていたのだが、9月9日、チームは、
ストラスバーグ投手を今シーズンに登板させることはもうない、と発表した。
ストラスバーグ投手は2010年に右ひじに手術を受け(いわゆるトミー・ジョン手術)、将来のことも考慮して、今シーズンは開幕前から
「160イニングまで」という
投球制限を設けていた、というのだ。8月末でその制限にほぼ達したため、チームは優勝争い真っ最中にも関わらず、
エースの離脱を決断したのだった。
この判断に対して、アメリカでも
賛否両論が出たという。
結局、ワシントン・ナショナルズはナショナルリーグ東地区を制したものの、プレイオフの地区シリーズで
敗退。この結果だけを見れば、
「ストラスバーグ投手がいれば…」という感情を抱いて当然という気もするけれど、
来シーズン以降の同投手の成績、いや、彼の
投手としてのキャリアが終わるまでは、今回の判断の結論は出ないとも思われる。
富士Sのインプレで、どうしてこんな前置きを書いたかというと、
またもNHKマイルC出走の3歳馬が活躍したからだ。
1分34秒5という決着時計が“平凡”とも言われた今年の同レースの出走馬たちが、秋に入って
古馬たちを一蹴しまくっている。
富士Sを快勝した
クラレントは
NHKマイルCの③着馬で、ご存知の通り、
毎日王冠は同レース覇者の
カレンブラックヒルが制し、②着には同⑥着の
ジャスタウェイが食い込んでいる。
他にも、④着だった
オリービンが
ポートアイランドSを勝ち、⑧着だった
レオアクティブが
朱鷺Sと
京成杯AHを連勝。⑨着だった
ガンジスはダート路線で
大阪スポーツ杯(準OP)と
ペルセウスS(OP)を快勝している。
NHKマイルCを走った3歳馬がこんなに活躍しているのは、久しぶりのことだ。同レース出走馬が3歳時に
古馬相手のJRA重賞で優勝したのは、昨年は
安田記念①着の
リアルインパクトだけ。一昨年は該当馬が
0頭で、09年は
函館スプリントS①着の
グランプリエンゼルだけだ。
NHKマイルCを走った後、3歳時に古馬相手の
JRA重賞を制した馬が2頭以上出たのは、
06年以来になる。その時は、
ステキシンスケクンが
京成杯AHを勝ち、年末に
フサイチリシャールが
阪神Cを制した。
10年ほど前には、このようなことは頻繁に発生していた。
00年には
アグネスデジタルが
マイルCSを勝ち、
マイネルブライアンが
シリウスSで優勝。
99年には
富士Sを
レッドチリペッパーが、
京阪杯を
ロサードが制している。
98年には、
JCの
エルコンドルパサー、
スプリンターズSの
マイネルラヴと、
G1・2勝も記録されている。
近年では珍しくなっていたことが、今年はどうして突如起こっているのだろうか? 単に3歳馬のレベルが高いのか、それとも古馬のレベルが低いのか……。レベル差うんぬんよりも、今年は、
NHKマイルCで
“異常”とも言えるような時計が出なかったことが、逆に
好影響を及ぼしているような気がしてならない。
これは、今回のレース前に、ある編集部員から指摘されて気づいたことなのだが、今年の
富士Sが終わり、改めて過去の
NHKマイルC出走馬のその後を分析して、その気持ちを強くした。
NHKマイルC出走馬がその後に活躍できないかと言うと、そうとまでは言えない。高速決着が続いていた近年でもそれは該当し、昨年の
マイルCSを制した
エイシンアポロンは2010年の
NHKマイルCに出走していたし、今年重賞を連勝した
パドトロワも同レースに出ていた。ただ、
エイシンアポロンは
⑨着、
パドトロワは
⑯着という着順だった。
2010年の
NHKマイルCでは
1分31秒4という驚異的なレコードが樹立されたが、そこで掲示板に載った5頭の中で、その後に
芝OPを勝った馬はいない。そのかわり、⑥着以下の馬の中からは前述した2頭(
エイシンアポロン、
パドトロワ)以外にも、
エーシンホワイティ、
コスモセンサー、
ガルボ、
エーシンダックマンの4頭が芝OPで勝利を挙げている。
2011年の
NHKマイルCは
1分32秒2というタイムで、③着に入った
リアルインパクトが次走で
安田記念を制している。ただ、⑤着以内の馬でその後に勝ち鞍があるのは同馬だけだ。それに対して⑥着以下の馬の中からは、その後に芝OPを制した馬が3頭(
マイネルラクリマ、
ヘニーハウンド、
テイエムオオタカ)出ている。
2010年と2011年の結果を見れば、
NHKマイルCで着順が良くなかった馬の方がその後に活躍している。いや、これは語弊があるかもしれない。両年の
NHKマイルCで掲示板に載った馬の中には、その後に
故障をして戦線離脱を余儀なくされた馬が少なくないからだ。
翻って今年の出走馬はどうか。
カレンブラックヒルを筆頭に、掲示板に載った馬の中で8月以降に出走歴がないのは
アルフレードだけで、⑥着以下の馬についても、8月以降にレースをしていないのは
2頭(
ブライトライン、
ネオヴァンクル)だけ。そして、前述したように
旋風とも言えるような活躍を見せている。決着時計(
1分34秒5)が速すぎなかったことがその後の競走生活に好影響を与えている、という推論は成り立たないだろうか。
近3年の
NHKマイルCはいずれも良馬場だから、決着タイムは
ペースによる部分も大きいのだろう。ただ、“異常”とも思えるような高速決着となれば、特に
若馬に対しては負担が大きいと思わざるを得ないから、その点については可能な限り
配慮した馬場作りが成されてほしいものだ。
カレンブラックヒルが
毎日王冠で古馬を撃破し、
富士Sも
クラレントが快勝劇を見せたことで、これからの
秋G1はさらに盛り上がることだろう。
クラレントについては、
岩田騎手が
マイルCSでも好勝負できる力があるとレース後にコメントしていたから、どんなレースを見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
元気な3歳馬が古馬を相手にしてどれだけ通用するか。古馬混合の
秋G1はその部分こそが
醍醐味でもあるのだから、そのような舞台作りが行われることを切に願いたい。そして、競走馬はとにかく無事に大舞台を迎えて、走り切ってほしいものだ。