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改めて、競馬の難しさを認識させられる一戦になった
文/浅田知広、写真/森鷹史


筆者が前回このレースインプレッションを担当させていただいた際(今年のスプリンターズS)、自転車ロードレースに少しだけ触れていた。実は競馬と自転車、同じレースだけあって似たところも少なからずあったりする。

たとえば、自転車ロードレースの重要なポイントとして、たとえ道中は風を受けるのを嫌って後方を走っていても、勝負どころでは必ず前方に位置取りをする、というものがある。理由はいくつもあるが、そのひとつとして、集団前方でのちょっとした動きが後方へ伝わるに従い非常に大きくなり、果ては落車にも繋がる危険性がある、ということが挙げられる。

今年のマイルCSを制したサダムパテックは昨年、クラシックの有力候補とも期待されながら皐月賞②着、ダービー⑦着、そして菊花賞は⑤着。そんな中で今ひとつ脚質が定まらない、どういう形がこの馬にとってベストなのか見えてこないところもあった。

しかし、今年の東京新聞杯以降はほぼ中団から。必ずしも好結果に繋がるレースばかりではなかったが、位置取りが安定していることにより、今回も最内枠を引いたからといって「どんなレース運びをするんだ?」などと疑問を挟む余地もさほどなかった。

中団の内でじっくり脚を溜めての直線勝負。昨年、3枠5番から勝ったエイシンアポロンや、1枠1番で②着のフィフスペトルが比較的似た競馬をしていたこともあり、「サダムパテックが勝つ図」も描きやすかったことだろう(しかし筆者、馬券はハズレた)。どうやら手綱をとった武豊騎手もそのようで、レース後のインタビューではほぼイメージ通りといった内容の話も聞かれた。

その一方「絵に描いた餅」という言葉もあるもので、どんなレースでも、多くの出走馬について「こうなれば勝てる」という展開を描けるものだ。しかし、実際に勝利を手にするのは同着がなければ1頭だけ。事前の想定通り、理想通りのレース運びで結果を出せることなどほとんどない。

サダムパテックあわやの場面は、直線残り300m。ちょうど少し外に出そうかというタイミングで、内の馬のわずかな動きもあって挟まれ加減にやや大きく外へ。もし位置取りがわずかでも後ろだったら、完全に進路をふさがれていた可能性もあっただろう。そして、このあたりの動きが波のようになって外の後続へ影響を及ぼし、大きな不利を受けてしまったのが②着のグランプリボスだった。

自転車と違い、競馬の場合は個々の脚質などもあって単純に「前にいればいい」というものでもなく、逆に後方から進めたから、あるいは仕掛けをワンテンポ遅らせたから勝てたというレースも多々ある。しかし、結果的に今回はもう少し前が正解だったと思われる。

4コーナー手前では内にサダムパテック、そのすぐ外にグランプリボスとほぼ2頭が並び、JRA発表の4コーナー通過順では、サダムパテックが7番手でグランプリボスが8番手。このたった1頭分の差、そして直線で内めを突いたかやや外に出したかの差が、ほんの何秒か後に少しの不利で済むか大きな不利を受けるかの違いに繋がり、さらにはゴールでの大きな大きなクビ差である。改めて、競馬の難しさを認識させられる一戦になったと言っていいだろう。

そして、武豊騎手はこれがマイルCS21回目の騎乗にして初勝利。G1を勝って「少し恥ずかしい」と言えてしまうのも、あまたの実績を重ねてきたジョッキーならではだが、これまで[0.4.3.13]と②~③着が計7回。中でも惜しかったのは、初めて②着になった89年のバンブーメモリーだった。

ほとんど勝ったような態勢から、オグリキャップに内をすくわれハナ差の②着。ただ、当時は「武豊ならこの後いくらでもチャンスはあるでしょう」というレースでもあった。そんな僅差で勝利を逸してからなんと20年以上。ここにも競馬の難しさが表われているように思えるが、いよいよこの勝利でJRA平地G1完全制覇まで朝日杯FSを残すのみとなった。

その朝日杯武豊騎手、1番人気馬の騎乗は08年のブレイクランアウト1回だけというのは意外だが、残りひとつに迫ったことで追い風が吹く可能性も大いにありそうだ。