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母系の血が見事な逃げ切りを生んだ!?
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也

学生時代、血統好きの友人と“血統は絶対なのか”というテーマで議論になったことがある。

その後自分自身がサラブレに入ったことからも分かるように、血統論は嫌いではない、むしろ好きなのだが、その時は半分ディベートのような感じで、自分は反血統論者の立場で議論することになった。

そこでした議論の内容はほとんど忘れた(笑)が、熱くなった友人が最後に語った言葉だけは、今も鮮明に覚えている。

「もし、ニホンピロウイナー産駒が春の天皇賞を勝ったら土下座してやるよ!」

サクラバクシンオーではなくニホンピロウイナーというところに時代を感じますが(笑)、どうやら友人、こちらとは逆に相当熱くなっていたようである(余談だが、何年か後、ニホンピロウイナー産駒のメガスターダムが02年の菊花賞で③着に入ったときに、友人は青くなっていた)。

なぜそんな話を今になってしたのかというと、今回の京阪杯が終わって、逃げ切ったハクサンムーンの血統を見たときに、この話を思い出したからだ。

レースを振り返ると、最内枠からのスタートになったハクサンムーンは、スタートから押しているテイエムオオタカを横目に、スムーズにハナに立った。

ハクサンムーンは、今回と同じコースとなった前走の京洛Sでもハナに立っているが、⑮着に大敗している。この2戦で違う点は、京洛S前半600mが33秒1のハイペースだったのに対し、今回は34秒3だった。

馬場差もあったとは思われるが、これだけゆったりしたペースで行かれると、後続が捕まえるのは難しくなってくる。4コーナーでテイエムオオタカが並びかけてきたが、譲らず先頭で直線へ。最後は1番人気のアドマイヤセプターが差し込んできたが、アタマ差振り切った。

教科書通りの逃げ切り勝ちを収めた要因は、前半の貯金がモノをいう形となったのは間違いないところだろう。

ハクサンムーンは芝1200mで前半33秒5より遅いペースで逃げたときが[4.0.0.0]逃げられなかったり、33秒1より速いと[0.0.0.3]。これからもゆったりとしたペースでハナに行けそうなときは、相手にかかわらず注意すべき存在となっていきそうだ。

冒頭の話に戻るが、勝ったハクサンムーンの母系をさかのぼると、母はチリエージェ、母父にサクラバクシンオー、祖母にはメガミゲランの名前がある。チリエージェは若いファン、メガミゲランはそれよりも少し年季の入ったファンなら、名前を覚えている方も多いのではないだろうか。

この2頭に共通するのは、“スプリンターの逃げ馬”だったこと。チリエージェは芝ダート含めて1000~1400mで5勝を挙げている。また、その5勝はすべて4角2番手以内で、4角先頭だと[3.0.1.4]だった。

また、メガミゲランは差して勝ったこともあるが、4角先頭だと[5.1.0.0]で、逃げたときの強さは別格だった。特に、メガミゲランが勝った97年アンドロメダS(OP特別)は、同じコース(京都芝1200m)、逃げ切りと、今回の京阪杯との共通点も多い。

一方のハクサンムーン5勝はすべて逃げ切りで、4角2番手以下だと[0.0.0.3]。典型的な逃げ馬だ。

親子で活躍した馬でも、脚質までそっくりということは多くないような印象もあるが、この一族は別なのだろう。「この親にしてこの子あり」とはよく言ったものだ、と思う。

ハクサンムーンはこれが重賞初制覇となったが、まだ3歳。チリエージェメガミゲランはともに5歳になっても勝ち星を挙げている。これだけ似ている一族なら、母や祖母と同じように、今後はスプリント路線で長く活躍していってくれるのではないだろうか。

そして自分は今回の結果を受けて、冒頭の話に出てきた友人に対して「血統論も大事だよね」とメールしようと思っている(笑)。