コース最大の難所で「もっともいい脚」を使った点で勝負あり
文/編集部(W)、写真/川井博
12月に移行した06年以降、6年中5年で4番人気以内が2頭以上セットで馬券圏内に入っていて、4番人気以内で好走した馬のほとんどは前走が
エリザベス女王杯でひと桁着順。
「エリザベス女王杯で上位だった馬が上位人気に推されて比較的安定して走り、わりと平穏な決着が目立つ」というのが最近の
愛知杯に対するイメージだった。
だったが、今年は6年中5年ではないほう、つまり、条件馬で軽ハンデ&人気薄だったセラフィックロンプ(51kg、16番人気)とチェレブリタ(50kg、14番人気)がワンツーし、前走の
エリザベス女王杯で④着と健闘して上位人気に推されたマイネレーツェル(3番人気)が③着となった
08年と同じパターンである。
今年は条件馬で軽ハンデ&人気薄だった
エーシンメンフィス(51kg、7番人気)と
サンシャイン(52kg、10番人気)がワンツーし、前走の
エリザベス女王杯で差し決着の中、4角先頭から⑤着に踏ん張った
オールザットジャズが2番人気で③着。
ただ、08年の上位2頭はふた桁人気で、6月に行われていた時の05年は上位3頭(①着マイネソーサリス、②着チアフルスマイル、③着フィヨルドクルーズ)がすべてふた桁人気(13、11、14番人気)だったから、そういった過去の大波乱を見ていると、今年くらいの波乱ではあまり驚かなくなっている。
結婚して5年も経つと、妻の作る
野菜炒めがしょっぱくてもまったく驚かなくなっている。
慣れとは恐ろしい。
今年と05・08年が違うのは、05・08年は前崩れの差し決着だったのに対し、今年はスローペースでの前残り決着だったこと。
エーシンメンフィス&
川須騎手が作ったペースは前半1000m通過64秒5で、稍重であることを考慮しても重賞としてはかなり遅い。
そして、メンバー中最速の上がり34秒2を計時したのが4角17番手から差し込んだ
アスカトップレディ(⑩着)だったが、
エーシンメンフィスは逃げて上がりを34秒6でまとめているのだから、メンバー中2位の上がり34秒3を計時しながら⑥着に敗れた1番人気
ピクシープリンセスをはじめ、直線で後続の差しが届かないのもムリはない。
エーシンメンフィスは、前走の
衣笠特別(京都芝外1800m、不良)が1分51秒2、今回の
愛知杯(中京芝2000m、稍重)が2分3秒6で走破していて、いずれも道悪でスローペースに落としての逃げ切り。父がサドラーズウェルズ系のメダグリアドーロであることから、
時計を要する決着になったことも幸いした面があるはず。
今後は良馬場の芝で時計が速くなった時にどこまで対応できるかがポイントになりそうだが、500万のダ1800m→1000万の芝1800m→G3の芝2000mで3連勝というのはめったにお目にかかれない記録だと思うし、
エーシンメンフィスは途中でハナに立ったレースも含めると、
逃げた時が[5.0.2.0]なので、
先手を奪えれば渋太いタイプであることは確かだろう。
また、その長所を上手く引き出した
川須騎手の手綱捌きも光る。もちろん、人気薄という立場でマイペースで行かせてもらえた利もあったとは思うが、
ペース配分は実に巧み。
3~5F目で
13秒台のラップを刻むなど、できるだけ脚を溜めた前半に対し、後半は
12秒5、
12秒0、
11秒5、
11秒0と徐々にペースを上げて後続の追い上げを寄せつけず、最後の1Fを
12秒1で締めて完封。
坂がある最後から2F目(残り400~200m地点)で計時したラップはこのレースのラップの中でも、また、新装後に行われた中京芝2000mの36レースにおいて、その地点のラップとしても最速となる。
川須騎手がムチを入れて仕掛けたのが最後から2F目の標識を過ぎたあたりで、いちばん苦しくなるであろう、
このコース最大の難所と思われるところで「もっともいい脚」を使ってリードを保った点で勝負あり、という感じだった。
川須騎手は
小倉大賞典(エーシンジーライン)、
福島記念(ダイワファルコン)に続き、この
愛知杯で重賞3勝目となったが、いずれも4角先頭から粘り込んだもの。その名前とは裏腹で、重賞では直線で交わされない形で勝ち星を積み重ねている。今後も先行馬に乗っている時は注目しておいて損はなさそうだ。
ちなみに、
エーシンメンフィスの馬名の由来は
「冠名+アメリカの地名」とのことで、メンフィスはテネシー州にある
ミシシッピ川に面する都市。母がテネシーガールなので、おそらくその馬名にちなんで名づけたのでしょう。
それにしても、
エーシンメンフィスは馬名が
川沿いの都市のせいか、何かと
水に関連するものに縁がありそう。キャリア13戦中9戦と道悪で走ることが多く、5勝中4勝は道悪、
川須騎手が騎乗した時は2戦2勝と好結果も残している。今後、
エーシンメンフィスが出走してきたら、そのあたりも意識してみてはいかがでしょうか(笑)。